神様修行はじめます! 其の四
それに、門川君の影武者になってる凍雨くんのことが心配だった。
早く帰って休ませてあげないと、彼まで犠牲者になってしまう。
「なあ、里緒」
「ん? なに?」
「帰らないで、このままずっとオレのそばにいてくれ」
「・・・・・・」
「って言っても、だめなんだろうなぁ」
そう言って浄火はアハハと笑った。
穏やかに細められた両目が、あたしをじっと見つめている。
その目には相も変らぬ明るい愛情と、あたしへの大きな労わりがはっきりと感じられた。
「オレさ、自信もって言うけど、誰よりも里緒のことが好きだぜ」
笑顔の浄火がチラリと視線を走らせた。
その先には、セバスチャンさん達と話している門川君の姿が。
「あんなメガネなんかより、オレの方がよっぽど里緒を想っているし、大切にできる自信もある!」
「・・・・・・」
「オレ、本当に里緒のことが好きなんだ」
そう言ってまた、ニコッと笑った。
あたしはほんの少しだけ唇の端を上げながら、黙って聞いていた。
自分が今、どんな顔をして浄火を見上げているだろうと心配しながら。
心の奥から湧き上がる、疼くような切なさ。
浄火の気持ちを本当に嬉しく思う気持ち。
なのに、差し出された真心を受け入れられない痛み。
・・・やっぱり、痛みや切なさの方が強いから、油断するとすぐ泣き顔になってしまう。
だからあたしは一生懸命、唇の両端を持ち上げ続けた。
ここであたしが泣いたりしたら、笑ってくれてる浄火の立場が無いもの。