神様修行はじめます! 其の四

少し離れた先で、彼女はセバスチャンさんと並んで縁側に座っていた。


セバスチャンさんはヒザの上に紙を敷いて、せっせと野菜の筋をむいている。


戻って来たばかりだってのに、働き者だな。


他には誰もいない静かな空間で、お岩さんは穏やかな表情で中庭を眺めていた。


あたし達に気付いた様子はない。


あたしと門川君は声をかけるために、さらに近寄ろうとした。


「ねえ、セバスチャン」


中庭を眺めたまま、お岩さんが言った。


「あなたはこれから、もう自分の好きなように生きていきなさい」


ピクン・・・と、あたしと門川君の足が止まった。


静まり返ったこの空間に、お岩さんの声がよく通る。


あたしと門川君は、軒がつくった影の下で顔を見合わせた。


「わたくしは、当主の座をあなたに譲ることはしませんわ」


「それは当然にございます」


セバスチャンさんは仕事の手を休めず、そう答えた。


お岩さんも表情を変えずに淡々と話し続ける。


「この里は、ずっとあなたの采配で回っている。そのあなたが・・・」


「・・・・・・」


「そのあなたが先代の長子かもしれないと噂が立てば、あなたを当主に推す者が当然出てくる」


権田原の里は、門川君の敵から常に狙われている。


弱小一族の権田原にとって、一致団結こそが生き残る唯一の手段。


ひとたび隠し子騒動が起きれば、それは一族存続の危機に繋がってしまう。

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