神様修行はじめます! 其の四
彼女は空に向かってピンと手を伸ばす。
決して届くはずもない場所に向かって。
「里を出るなり、好きにして。誰もあなたを止める権利は無いから」
せめて。
せめて、それぐらい。
もしかしたら、本当ならば手に入れていたかもしれない物。
その全てを奪ったのは、隣にいるこの女。
手に入れることを許さない、この里。
なのに一生、家来のように仕え続けるなど、酷すぎる。
だから・・・・・・せめて。
「お忘れですか? わたくしがいなければこの里は回らないと、ご自分で仰った言葉を」
慇懃無礼な、どこか呆れたような声。
「わたくしめは里から出るつもりも、あなた様のおそばを離れるつもりもございません」
「無理をしないで、好きにしなさい」
「好きにしろと仰るならば、命令しないでくださいませ」
テキパキと手を動かし、無表情で彼は言った。
「わたくしめは、いついかなる時も、何があろうと、あなた様のおそばに居ります」
「・・・・・・」
「ジュエル様が当主に就任する際、わたくし達はそう誓い合ったはずです。だから・・・・・・耐えて下さい」
空を見上げる彼女の目が潤んだ。
天に伸ばした腕を引っ込め、濡れた目蓋に強く押し当てる。
空が・・・
届くはずもないあの空があまりに眩しくて。
だから涙が出るのだろう。