神様修行はじめます! 其の四
望んでも望んでも。
どれほど焦がれたところでそれは、決して届かぬ存在なのに。
なのに、こんなに近くにあるなんて。
呪うほど残酷な現実と知りつつ、この存在を失う事が何より怖い。
だから手放すことなど・・・とてもできない。
滾るようなこの苦しみを胸に抱えて、耐えて生きねばならないのか。
「父を・・・生まれて初めて恨みましたわ」
涙に震える声が聞こえる。
袖の端から逃れるように涙の筋が、ほろほろと伝って落ちた。
「でもこれが私で、これがあなたよ。私はそれを受け入れるわ」
自分という命は、この形で生まれて。
あなたという命も、この形で生まれた。
それ以外の、何者でもない。
もしもそれが別の形であったなら。
そんな考えが頭をよぎる事もある。けれど・・・。
「けれどあなたが生まれて、生きて、私のそばに居る。これ以上なんて、望むべくも無いの」
彼女の震える指が隣の男に向かって伸びた。
だけどその手は、望む者へ届く寸前で動きを止めた。
「でもね、一生一度でいい。嘘でもいい。嘘でもいいから・・・」
大きくすすり上げて、深く息を吐き。
「好きだと・・・言って・・・・・・」
空に掻き消えてしまいそうな言葉。
器械のように淡々と作業を続けていた彼の指の動きが、初めて止まった。
美麗な男の瞳が、迷いと憂いで翳る。
時間が止まってしまったように、ふたりはそのまま動かない。
あたしは・・・・・・
門川君とふたりで、その場からそっと立ち去った。