神様修行はじめます! 其の四
「やっぱり大好き! みんなのこと、大好きだよ!」
「わたくしもアマンダが大好きですけど、その頭のフンは別ですわ!」
「天内君、来たまえ。僕がそこの数寄屋で洗髪してあげよう」
笑いを噛み殺しながら門川君が手招きした。
ひとしきり笑った絹糸が、しっぽをユラユラしながら皆を促す。
「では我らは、先に屋敷へ戻るとしようかの」
「あ、塔子、足元に気をつけるでおじゃるよ? ほらそこに小石が」
道に落ちてる小石を、愛妻のためにマメマメしく除けてあげるマロさん。
みんな感心するやら呆れるやら。
塔子さんは満足そうにゆったり構えている。
「典雅ったらあたしに同調して、つわりまで始まってるの。いっそ代わりに出産してくれたら楽なんだけど」
・・・それって聖母マリアの、処女受胎以上の偉業だよ。
さすがにバチカンで聖人認定されちゃうレベルは、求めないであげてよ・・・。
いったん皆と別れて、あたしと門川君は数寄屋へ向かった。
頭にフンは乗っかってるけど、上機嫌。
鼻歌交じりで足取りも軽やかだ。
「天内君」
「んー?」
名前を呼ばれて顔を上げた瞬間。
あたしは、門川君にキスされていた。
「・・・・・・・・・・・・」
見開かれるあたしの両目。
彼の黒い髪。綺麗な肌の色。
鮮明な空の青。薄桃色の桜の花びら。
好きな人の、優しく柔らかい唇の感触。
その全ての色彩と、感覚と、紛うことなき存在。
あたしの世界の奥深い場所に、記憶となって刻まれた。