神様修行はじめます! 其の四
滅ぶことの決まってしまった一族の、たったふたりだけの生き残り。
それは確かにあの時あたしも感じたけれど、でも。
「それと結婚とは話は別で・・・」
「ああ、本当に綺麗な景色だなあ。感動的だなあ」
「おいこら人の話を聞けっつーの」
「島の連中にも、見せてやりたいな。そしたらみんなも、きっと・・・」
ポツリと、小さな声で浄火は続けた。
「きっと少しぐらい、生まれてきて良かったって思ってくれる・・・かなあ・・・」
・・・・・・・・・・・・。
浄火の声が、あまりにも寂しげで。
あたしはまた言葉を無くしてしまう。
あたしの手を握る指に、彼はキュッと力を込めた。
その指から、ますます寂し気な気配が伝わってくる。
それは手を振り払うのを、ためらわせるほどで・・・。
無言で浄火は歩き続ける。
桜や、牛や、畑や、道端の花。
そんな何気ない風景を眺めつつ、柔らかく微笑みながら。
その嬉しそうな表情を見たら、なぜか逆に、あたしの心はひどく切なくなってしまった。
うつむき、黙って浄火と一緒に、権田原のあぜ道を歩く。
しま子はそんなあたし達から数歩離れて、見守るように静かに後をついて来ていた。
・・・この世にたったふたりだけの、生き残り・・・。
結局あたしはそのままずっと、浄火の手を振り払うことができなかった・・・。