泣きたい夜には…~Hitomi~



お母さんは優しい笑みを浮かべながら、とんでもないことを言い出す人……。


「まだまだよ。私が教えられることはもうないけれど、もっと料理のレパートリーを増やして料理の知識を身に着けなければいいお嫁さんにはなれないでしょ?」


お嫁さんて……


「まだまだ先の話じゃないの」


お母さんの言っていることは、花嫁修業ではなくて、板前修業みたいに聞こえるのは私だけ?


お母さんは優しい笑みを崩さぬまま、


「いい?ひとみ、病院はお兄ちゃんが継ぐわ。頑張って勉強して立派なお医者様になるの。

あなたはお医者様の奥さんになるんだから、その方に相応しい女性になるためにも知性と教養を磨きなさい」


なんて、今だったら猛反発したくなるような言葉を並べ立てる。


でも、この頃の私は、


「はい」


自分でもそうなることが当たり前だと思っていた。



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