泣きたい夜には…~Hitomi~



まだ私の存在に気づいていない慎吾に、背後から


「誰が狂暴だって?」


低い声で言うと、慎吾は振り返り、


「ぅわっ!」


驚きのあまり、吉本新喜劇も真っ青な仰け反りを披露してくれた……。


「全く、私がいないと思って、ろくなこと言わないんだから。奥さんは私と先生のことは全て承知の上で名前を付けたのよ」


先生の奥さんは、あの時のように笑って、


「入院中に彼の愛した人が浅倉先生だということは、すぐわかりました。

浅倉先生にしてみれば、私なんて憎むべき存在なのに、必死になって娘を…ひとみの命を救ってくれた。

娘には浅倉先生のような素敵な女性になってもらいたい…そんな思いをこめて先生のお名前をいただいたんですよ」


私をフォローするように優しい口調で話してくれた。


でも、かなり美化しすぎのような気がしなくもないんだけれど……。


あまり褒められすぎても恥ずかしいものが……。



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