泣きたい夜には…~Hitomi~



「浅倉、いつ出発なんだ?」


向井先生に聞かれ、


「3月下旬には」


あんな別れ方をしたのにこんな風に話ができるようになれるとは思いもしなかった。


向井先生との別れは、慎吾とひとみちゃんに出会うために必要な出来事だったのかもしれない。


今は向井夫妻の幸せを心から願える。


ひとみちゃんをそっと奥さんの腕に返し、


「お元気で、どうかお幸せに」


向井夫妻に頭を下げると、


「さっ、慎吾、行くわよ!」


最愛の人の腕に自分の腕を絡ませ、駐車場へと向かった。


そして、あっという間に3月、


旅立ちの日。


見送りはいらないと言ったのに、


「飛行機に乗ったことを確認しないと安心できない」


慎吾は成田空港まで着いてきた。


チェックインを済ませ、搭乗のアナウンスが入るまでの間、ベンチに腰を下ろして、しばしの別れを惜しむつもり……



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