泣きたい夜には…~Hitomi~
番外編

ふたりのオーベン 向井side.




ひとみと成瀬くんの結婚式と披露宴の後、まだ家に帰ろうという気持ちになれず、披露宴会場だったホテルにほど近いショットバーへと向かう。


ここは学生時代、親友とよく来た店。


14年ぶりか……


ふたりらしい結婚式と披露宴の余韻と今は亡き親友との思い出に浸りたくなりラウンジのドアを開けた。


「あら、向井じゃない?早く帰って家庭サービスしなくてもいいの?」


カウンター席のど真ん中に鎮座するのは……


「五郎……」


五郎、小野塚五郎は、医大の同期。


湘南医大小児科准教授でひとみのオーベン(指導医)をしていたこともある。


「やーね、五郎なんて呼ばないでよ。アタシ、自分の名前、嫌いなのよね」


五郎は俺をじろりと睨むと、グラスに残ったビールを一気に煽った。


嫌いって……


そのゴツイ体とだみ声にぴったりの名前だと思うが……


「もっとさぁ、ユウキとかヒロミみたいな男でも女でも使える名前が良かったのよね、アタシ」


いやいや、日本中のユウキさんとヒロミさんが可哀相だから五郎で十分。



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