泣きたい夜には…~Hitomi~
「本当にいいの?早く帰ってあげなくって」
意地悪な笑みを浮かべる五郎。
このまま黙っていれば致死量マックスの毒舌が飛ぶこと間違いない。
「実家に帰った」
ぽつりと言うと、
「ふーん、愛想尽かされたんだ、自業自得ね。あ、ビールおかわりちょうだい」
五郎は嫌味な言葉を返してくる。
学生の頃から俺はこいつが苦手だった。
こいつの棘のある物言いに何度撃沈させられたことか。
「あいにくだが、うちは家庭円満だ。香澄は悪阻が酷くてひとみと実家に帰っている」
香澄は今、2人目を妊娠中。秋にはひとみに弟か妹ができる。
五郎はニヤリと笑って、
「あら、つまんないの。なーんて嘘よ。良かったじゃないの、ひとみちゃんも元気に育っているみたいだし……隣どうぞ、今日は特別にアタシの隣に座らせてあげるわ」
自分の店でもないのに偉そうなこと言いやがって。
癪に障ったがここで出て行くわけにもいかないので、
「では遠慮なく」
本意ではないが隣のスツールに腰を下ろした。
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