泣きたい夜には…~Hitomi~



「この様子ならすぐ退院できると思います。お父さんもお母さんもお疲れでしょう、ゆっくり休んでくださいね」


労いの言葉をかけると、看護師に点滴の指示をし、病室を後にした。


医局に戻ると、


「浅倉、よく頑張ったわね、お疲れ様。後はアタシが看るから今夜はもう帰っていいわよ」


指導医の小野塚先生に労いの言葉をかけられた。


口調は優しいが、ゴツイ体に野太い声。


そう、小野塚先生は男。


本人曰く、小児科医になって子供に優しく話しかけているうちにおネエ口調になってしまったということだが、


私の知る限り、男性小児科医には女性的な人は多い…。


「浅倉先生は週明けから学会出張だったよね?どこ?」


先輩ドクターの倉橋先生が話しかけてきた。


「仙台ですけど」


帰り支度をしながら答えると、


「仙台か…いいねぇ、牛タンに笹かまぼこ。おみやげは萩の月もいいけど、生どら焼きも捨てがたいねぇ」


倉橋先生の心は仙台を浮遊し始めた。



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