泣きたい夜には…~Hitomi~
私は迷いを振り払うように首を振った。
「もうこれ以上傷つくことなんてないわ。あなたが向井のこと、忘れさせてくれるなら」
もう迷わない。
絶対後悔なんてしない。
「成瀬さん」
成瀬さんは否定するように首を振って、
「『慎吾』だ」
耳元で囁かれる吐息の熱さに、全身に身震いするような甘い痺れが駆け巡る。
「慎吾」
絡み合う視線と視線。
それは瞬時に熱を帯び、吸い寄せられるように重なる唇。
そっと触れ合うような優しいキスは、やがて深く激しく互いを求め合うものに変化していった。
焼け木杭に火がつく、なんていうけれど、今の私達はやけ酒に火がついてしまったとでもいうべきなのか。
なんてことは頭の片隅に追いやり、慎吾の背中に腕を回した。
私と慎吾のふたりだけの時間が動き始めた瞬間。
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