泣きたい夜には…~Hitomi~



「あら、上杉教授だったら講義を終えて、今頃ダッシュでこちらに向かっているところじゃないかしら?年のわりにフットワーク軽いから。あ、ほらほら、走ってきたわよ!!!!」


小野塚先生の言葉通り、廊下をこちらに向かって猛ダッシュする上杉教授の姿が見えた。


50代とは思えない軽快な身のこなし。


私も今から鍛えておかないと……


医師は体力勝負だから。


「申し訳ない、講義が長引いてしまって」


背中を丸め、ハァハァと荒く呼吸をする上杉教授に、


「とんでもないです。少し私が早かったようで……急がせてしまい、すみません」


嫌味のないスマートな対応。


「いいわ~!彼ってサラリーマンの鑑ねぇ」


うっとりと慎吾に見とれる小野塚先生が熱いため息を洩らす。


うっ……


今のは見なかったことにしておこう……。


「浅倉先生、教授室にお茶をふたつお願いしますね」


上杉教授は私に言うと、慎吾を伴い、医局を後にした。



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