NENMATSUラプソディ
寝たので朝が来た。


昨夜そういえば美妃がなんか言ってたなあとぼんやりしたまま出社前に、マンションのポストを覗く。そこには白い封筒が入っている。中身を引っ張り出すと、ぺらぺらした薄い紙と、メモらしきものが入っていた。

 ぺらぺらした紙には『出張ホスト券』と、ド派手な字が印刷されている。なんじゃこれ。

 もう一枚のメモを手に取る。



 『この券、あんたにあげるわ~ 惺は今日もお店でるっていうし、惺の売り上げ伸ばしてあげたいから、これでたまには優菜も夢でもみなさい。連戦連敗の女へ』



 連戦連敗は余計なひと言だ。

 それにしても、ホストか。見目麗しい男を想像して、ちっと無意識に舌打ちをする。男のくせに見た目がいいとか、いらないオプションじゃね?

 こっちは女なのにぱっとしないんだからよ。女ならとりあえずぱっとした見た目必要じゃん。そういうのが何でこっちに回ってこないのだ。

 一重の目はどう化粧してもぱっとせず、ビューラーでどんだけ持ち上げてものしかかる瞼がカールをあっという間に伸ばしてしまう。マスカラはいったい何回重ねれば、その威力を発揮できるんだろう。

 ちっ。またしても舌打ちが漏れる。

 男のくせに二重でまつ毛長いとか見かけるたびに後ろから呪いたくなる、そんな気持ちで私はそのホスト券を見つめた。

 夜6時から12時までのシンデレラタイム。あなたと一緒に……。と書いてある。

 安っぽいコピー。

 というか、これ経費は私持ちだよね。どっちが接待される側なんだか。私はその券をそのままコートのポケットに突っ込み、駅までの道をいつものように歩き出す。

 ポケットの中の手が、つるつるとしたその紙の表面をなんとなく撫でた。
< 12 / 28 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop