NENMATSUラプソディ
 昼休みのころには、せっかくだしタダだし使ってみるかという気になった。

 いやだったらその場で帰ればいいしな。美妃に連絡すると、待ち合わせなどの詳しい話を聞く。


 「楽しんできなよー!楽しんできなよー!!」


 と電話口で妙に弾んだ声を聞き、なんかヤバい何かの勧誘みたいで恐ろしくなって切った。

 そうこうしているうちに無事に仕事が終わり、待ち合わせの場所へ向かう。あれほどしつこいくらいクリスマスだった街は一変していた。変な夢にでも踊らされたような気がして、昨日の決心があっという間に崩れ去る。頑張ったところで空回りし、結局一人で過ごしたこの一年。というか後にも先にもずっと一人なわけだが、この先もずっと永遠に一人の様な気がして、師走の街の中で別にそれでいいじゃんという気がしてきた。

 街だって一日で様相を変えるようなぺらい行事に付き合ってやる必要もない。

 というようなことを去年もその前も思ったな。そして秋が近づいてきて急にエンジンかかってくるんだった。私はそういう人間だった。

 一夜漬け人生という癖はなかなか抜けず、ちっとも成功しないのにやっぱり毎年繰り返してしまう。結局その程度なのよ。化学の元素記号配列を覚えるのと同じなわけよ、私にとって彼氏を作る行事というのはさ。

 だからなんだという考えに浸りつつ、やっぱ面倒だしもう帰るかその旨伝えて、と半分思いながら、目当ての人を探す。
 きょろきょろしていると、私と同じようにきょろきょろしている背の高い人物を見つける。


 ほう、あれか。


 遠目で十分わかるほど、容姿がいい。

 容姿がいいと言うだけでなんとなくカチンとくる。

 男のくせに。

 きっと女に困ったことなどないのだろうな。


 そうだ。私は現在、この券を持っているという点でお客様なのだ。私が向こうに合わせる必要などない。遠慮も謙遜も要らない。私を繕う意味もない。いいじゃん、それ。そう考えたら、よっしゃちょっとあのイケメンをサンドバック代わりにさせてもらおうかと(もちろん例えだけど)急にやる気が出てきた。
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