NENMATSUラプソディ
 至近で見ると、本当によくできた顔だった。

 顔もよくできてるがスタイルもいい。なんということだ憎たらしい。

 「どこまでもお供しますよ、お姫様」と慧(慧って名前もなんだかキラキラし過ぎているけど)は私の手にその手を滑り込ませる。びっくりするくらいアホな事を言いだすわけだが、それが意外にも嫌味ではないし、悪い印象を持たない。自然に繋がれた手も嫌な気はしなかった。これがイケメン無罪というものかもしれない。

 とはいうものの、私は既に臨戦状態である。さあ今日はとことん打ちのめしてくれよう!

 そん所そこらの男なんかに負けるわけないこの運動神経様が、今夜は火を噴く。

 最近ここまで本気だしたの久しぶりである。

 振り向けばホスト氏は呆然としている。

イケメンは呆然としてても絵になるのかと思うと、うっかりボールを真後ろに投げたい衝動に駆られるが、その大事な顔に傷がついて賠償でもたかられたら目も当てられないので、全ての思いをボールに込める。まさしく一投入魂。

 こういう状況で、プロはどんなリアクションを取るのかと思ったら、すごく普通だった。普通に友達とボウリング行って普通に「すごいねー」と言われる感じ。

 ただ、そこでひいたりとかマイナスな反応は無かった。慧もそれなりに上手だからそこそこの点数にはなっている。

 「俺も下手な方じゃないんだけどなー」

 と、別に気負ったふうでもなく、淡々とゲームを進めていた。

 なんというか、さっき会ったばかりなのに、もうずいぶんと古い付き合いがあるみたいな雰囲気で、なるほどこれがプロというものかと妙に納得した。

 ゲームが終わるころには、ちょっとした見物人もいて、大変気分の良いボウリングとなった。

 受付のお兄さんが「すごいですねー!!」と、頬を紅潮させたので「じゃあ、口説けよ」と言いたかったたけどそんなこと言えるわけもなく、笑顔で会釈するにとどめた。

 ホスト氏は今後私がどのような心持で数時間過ごそうとしているかをうっすら伝え、このように見た目のいい男に何の下心も抱かず、ただ付きあわせるという気楽さにますます拍車をかける。

 好印象を持つような選曲なんかしないカラオケ。相手がいてもいなくてもどっちでもいいようなバッティングセンター。
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