NENMATSUラプソディ
 そして26日。

 街はすっかりクリスマスを脱ぎ捨てて、ひたすらに年末だ。昨日までクリスマスとか信じられないくらいだ。

 指定された待ち合わせ場所まで歩きながら、どんな人が来るのかなと思っていた。まあお客さんだから年齢も幅あるし、たまに店に出た時に見かけるような人を探して見渡した。

 「こんばんわ!」

 突然後ろから話しかけられて、驚いて振り向けば、にこやかに手を振られた。

 「あなた、これの人?」

 手に持っているのは映画のチケットみたいなぺらぺらとした紙。

 「そうです。初めまして、慧です」

名前がそのまんまホストみたいだというから店の時の様に名乗る。

 「初めまして。えーっと、優菜です」

 優菜と名乗ったその人は、年は多分同じくらいか、それより上か。グレーのコートにふわっとしたマフラーを巻いていて、少し色を変えた髪を肩くらいにおろし、ブーツを履いている。どこにでもいそうな、これと言って特徴のない風貌の人だった。

 あのお店に来るような人にこんな感じの人いたかなという程、まあ言っちゃなんだが地味で、ホストにお金使いまくるような金回りのいい感じもしない。妹の方がよっぽどいい服を着てるしいいものを持っている。

 「えーっと、私さ、実はあなたのお店のお客じゃなくて、友達からこの券貰ったんだけど、そういうのって大丈夫かな?」
 「あー……」

 そうか、それいいのか?というか、むしろ俺がすでに店の人間じゃないしな。

 「言わなきゃわからないし、大丈夫ですよ」

 そう言ってほほ笑めば「そっか!」と言ってにっこり笑った。

 「券の内容については聞いてますよね。とりあえず今から12時までなんで、どうしますか?」
 「どこにでも行っていいの?」

 ちょっと遠慮がちにそう問う。

 「ええ、お好きなように」

 そう答えれば頬を紅潮させた。

 「ずっと行きたかった場所があるの。特にあなたのような人と!」

 その言葉に微笑んで、俺はその手に自分の手を滑らす。

 「今から12時まで。どこまでもお供しますよ、お姫様」

 そう言えば、彼女は照れたように微笑んだ。まあ、こんな感じでいいんだろうな。今会ったばかりでも、本当の恋人の様に二人で師走の街を行く。
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