NENMATSUラプソディ
 師走の風は、夜が深まるにつれてさらに冷たくなってくる。ボウリング場を出て「寒い!」と細い首をすくめる。

 「つぎはどうする?」

 俺は腕にだるさを覚えながら、とりあえずまだ時間は8時にしかなっていないことに軽く絶望しながら、次のリクエストを聞く。

 「じゃあねえ~ カラオケ行こう!」

 カラオケか。案外普通じゃね。こういうタイプってどんな歌うたうんだろう、と気軽に構えてお店に入る。




 すげええ!!とにかくすげえ!


 俺、生でヘドバン見たの初めてだ。


 彼女はマイクを握ったまま激しくヘドバンを繰り出す。
 それはさながら、貞子をスピードアップさせたような鬼気迫る何かがある。

 曲も重くて暗くて重低音がビシビシする。こんな曲、よくカラオケに入ってるよ。

 俺はフリードリンクのビールを飲みながら、呆然と激しいテンションで叫び続ける彼女を見た。

 「な、なんか、すごいね」

 曲が終わって俺はそう言う。それしか言いようがない。

 「あー、私昔バンギャだったんだよねー」
 「へ、へえ……。いつもカラオケってこんな感じ?」
 「まさかー!!ボウリングだってあんなに好きにやったの久しぶりだよ!」
 「へえ……」
 「ほら、大体さ、この年で行くとしたら合コンの流れとかで行くじゃん。合コンであんなことやったらドン引きでしょー」
 「え、じゃあ、いつもは?」

 焼酎の中の梅干をガツガツつつきながら、彼女は恨めしそうな目で言う。

 「ボールは6ポンドとか使ってさ、スコアは50前後にしとくのよ。『やだ、重ーい』とか言いながらね……」
 思わず俺は吹きだした。

 「笑い事じゃないのよ。合コンよ。カラオケだってaikoとか歌っちゃうわけ。ほんと、テトラポット粉砕したくなるよ」
 「そんな繕わなくてもいいんじゃない、面白いし」
 「あなた面白い女と付き合いたいと思う?世の男どもはね、ボウリングでスコア200叩きだして15ポンドのボール投げる女はお呼びでないのよ。カラオケでデスメタル歌うのもね。でも」

 そう言って彼女は俺を見た。

 「今日はとっても楽しい!全然知らないあなただから全然気兼ね要らないし、そもそも私に付き合うのが仕事だから悪い顔もできないでしょ?最近じゃ女友達の前でもやらないくらいだから、もうストレスたまりまくり!」
 「ええ?女友達でも?」
 「出会いの糸は細く、数もないの。どこからか私のそういうところが噂になって、紹介してくれる人数が激減したら話にならない!」

 焼酎をぐびっとあおる。

 「もちろんお酒は、普段はカルアミルクよ」

そう言うと、井戸の底から這い出てきたように、不吉に笑った。

 「さあ!歌うわよー!!」

 そう叫ぶと、またしても狭いボックスの中は、異様に不吉な雰囲気の絶叫がこだました。


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