NENMATSUラプソディ
 カラオケを出ると、時間はもう10時半だった。

 俺の耳がすでに悲鳴を上げている。あれだけ絶叫したのに、彼女は声一つからしていない。実に楽しそうだ。


 「まだ時間あるねえ。んーじゃあ次はねえ」


 
  カーーーーーーーン!!




 冬の寒空の中、いい音が響き渡るここはバッティングセンター。
 ぶんぶんとバットを振り回し、ここでもホームランを量産する。

 「女にしとくのもったいないねえ」

バッティングセンターのおじさんがつぶやく。

 「さー!!!!!!いつでもかかってきなさい!!」

 彼女はバッティングマシーンに向かってホームラン宣言をするかのようにバットの先を機械に向ける。

 「たーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 彼女の絶叫と共に、白球がきれいな弧を描いて夜空に消えていく。

 「あなたやらないの?」

 やっと俺の存在を思い出したように、振り向いてそう言った。

 「あー、いやお構いなく」
 「情けないなー!女の子と酒ばっか食らってるから体力ないのよ!」
 
 そう言い放つと、フンと鼻を鳴らした。言いたいこと言ってくれるよ。

 散々ホームランを決めた後、時計を見れば11時15分。

 「あなたお腹すかないの?」

 俺はそもそもご飯を食べに来たのだが……。誰のせいで夕飯食べてないんだよ……。

 バッティング場のおじさんにサインを求められ、ボールに『ゆうな(はあと)』と先ほどまでの雄姿がかけらもないようなかわいらしいサインを残し、羨望のまなざしに見送られながら俺たちはバッティングセンターを後にする。
 
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