NENMATSUラプソディ
「何食べようかなあ」


 今からなら、ダイニングバーとかでつまみながらとか考えた俺は敗者だ。

 この時間にマクドナルドへ入っていく。え、まじで。

 「何食べる?」と聞かれても、この時間にファーストフードなんか食べたいと思わないので、とりあえずコーヒーとナゲットを頼む。

 「イケメンは小食なのねー!」としきりに感心している。

 そう言う彼女は何を頼むかと思ったら、ビッグマックのセットだよ。ビッグマックを食べる女って初めて見た。

 Lサイズのコーラを飲み、Lサイズのポテトを次々に口へ放り込む。

 そうして、彼女と取りとめのない話をした。質問すれば、素直に返してくる。明日が仕事納めの事、同僚のこと、上司のこと、近所の猫のこと。駅ですれ違う人のこと、合コンが惨敗な事。
 ビッグマックは食べにくいと思うけど、きれいに食べて、静かに語るその口元を見る。

 やがて、時計は11時55分を差した。

 外は白い息が凍るほど冷たく、行きかう人々の足も速い。年の瀬だからなとぼんやりと思う。




 「今日はどうもありがとう」

 彼女は笑顔で言う。

 「すっごい楽しかった!さすがプロだねー!」 

 「あの……」

 そう言いかけると、顔の前で手を振る。

 「すごい申し訳ないんだけど、あなたすごいかっこいいとは思うけど、私お客さんになれない。ほんと、ごめんね!ホストさんに貢げるほどもうかってないの。本当にごめん」

 顔の前で手を合わす。

 「おかげさまで元気になった!来年は婚活がんばるよ!さよなら!気を付けてねー!」

 そしてさっと翻して駅の中の雑踏へ消えていった。

 しばらく後姿が去った後を見つめる。
 それから家まで電車に乗って、自分の部屋にたどり着いても、彼女のことがずっと頭に残っていた。この数時間の彼女を。
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