恋架け橋で約束を
美麗さんとの出会い
その道は、川の向こう側、私たちが行きで通った道と同じく、大部分を草に覆われていた。
周囲の草の生え具合も同じぐらいだったけど、木々は行きの道よりも少ないようだ。
それにしても、「山の中」という印象はそのままだったけど。
しばらく歩いていると、急に少しだけ視界が開けた。
そこは草木や花などが少なくなっており、向かって左手、川の反対側の遠方に目を凝らすと、家が見える。
その家までは少し距離があるので、対岸の道からは見えなかったのだろう。
今いる位置からもけっこう距離はあるものの、その家が大きいことははっきりと分かった。
「こんなところにも家があるんですね。街に出るのに、不便じゃないのかな」
足を止めて、孝宏君に聞いた。
「不便だと思うよ。ここからだと、どんなに急いでも、街まで歩いて四、五十分はかかるはず。通勤や通学も大変なんじゃないかな」
住んでいる人は大変そうだな……。
私たちはまた歩き出した。
しかし、突然、孝宏君が「あっ」と言って足を止めたので、私も立ち止まる。
視線を追うと、道の向こうから誰かが歩いてくるのが見えた。
「あら、神楽坂君!」
歩いてきたのは、目の覚めるように綺麗な女の人だった。
つばの広い白い帽子をかぶって、水色のワンピースを着ている。
年齢は、孝宏君や私と同年代くらいに見える。
孝宏君の同級生かな?
「あ……九十九(つくも)さん」
つくもさん?
崎山君が言ってたっけ。
「まさか、こんなところでお会いするなんて。あら、そちらは?」
「えっと、こちらは来栖野佐那さん。わけあって、色々と彼女のお手伝いしているんです。こちらは九十九美麗さん。僕の同級生だよ」
孝宏君は少し動揺しているように見えた。
やっぱり、美麗さんのことが好きみたい……。
気になる子って言ってたし……。
それにしても、いきなり「お手伝い」って言っても、全く伝わらない気がする。
何か聞かれたら、私のほうから説明しなきゃ。
「初めまして、来栖野佐那と申します。『佐那』ってお呼びくださいね」
私は頭を下げた。
「初めまして、九十九美麗です。私も『美麗』でいいですよ」
美麗さんも礼儀正しく、頭を下げる。
挙措動作が洗練されているようにみえた。
「それで、お二人はお散歩ですか?」
美麗さんが聞いた。
さっきの「お手伝い」がどういう意味なのか、突っ込んで聞いてこないようだ。
しかし、口調にどこかトゲを感じるのは、私の気のせいだろうか。
「ええ、まぁ、そんなところです。九十九さんは?」
「私は家に帰るところですよ。あちらに見えますのが私の家です」
美麗さんは、さっき孝宏君と話題にしていたあの大きな家を手で指し示して言った。
あの家の人だったんだ。
あんなに大きな家に住んでるってことは、お嬢様なのかな。
そう言えば美麗さんには、そこはかとなく、上品さも感じられる。
でも……やっぱり……。
私のほうを見る目に、不快感というか嫌悪感というか……マイナスの感情が浮かんでいるように感じられて、私は黙り込んでしまった。
私、何もしていないのに、いきなり嫌われてる?
もしかして、美麗さんにとっての私って、「生理的に受け付けない」っていうタイプなのかな。
孝宏君も黙ったままで、数秒の時間が流れた。
すると沈黙を破って、美麗さんが口を開く。
「それでは、お散歩のお邪魔してはよくないので、私はこれで。神楽坂君、佐那さん、ごきげんよう」
「どうも、また明日」
孝宏君は軽く一礼した。
「それでは、また」
そう言うと、私も頭を下げる。
美麗さんは優雅な足取りで歩き去っていった。
「あの人が美麗さんですね」
私たちも再び歩き始めている。
「うん、まさかあのおうちが九十九さんのうちだったなんて。びっくりだね」
「その……まずいところを見られちゃいましたね……。何だか、ごめんね。孝宏君は美麗さんが好きなのに、この状況を見られてしまって、あらぬ誤解を与えてしまったかも……」
私は申し訳なくなって言った。
たしかに、美麗さんと孝宏君がお付き合いするようなことになると、私にとっては大ショックは間違いない。
だけど、孝宏君が美麗さんを好きということが分かった以上、私が邪魔をするようなことはあってはならないと感じたのだった。
孝宏君のことが好きだからこそ……。
一昨日初めて会ったばかりの私が邪魔していいわけがなかったし、そんな権利は私にはないと思う。
そもそも、孝宏君にはお世話になってばかりだし、これ以上迷惑をかけたくなかった……。
「いや……そんなこと、気にしなくていいよ」
孝宏君はすごく複雑そうな表情だ。
表情からは気持ちが全く読み取れない。
不安……。
私たちの間には、どことなく気まずい空気が流れてしまったけど、引き続きおしゃべりを続けながら歩いていった。
周囲の草の生え具合も同じぐらいだったけど、木々は行きの道よりも少ないようだ。
それにしても、「山の中」という印象はそのままだったけど。
しばらく歩いていると、急に少しだけ視界が開けた。
そこは草木や花などが少なくなっており、向かって左手、川の反対側の遠方に目を凝らすと、家が見える。
その家までは少し距離があるので、対岸の道からは見えなかったのだろう。
今いる位置からもけっこう距離はあるものの、その家が大きいことははっきりと分かった。
「こんなところにも家があるんですね。街に出るのに、不便じゃないのかな」
足を止めて、孝宏君に聞いた。
「不便だと思うよ。ここからだと、どんなに急いでも、街まで歩いて四、五十分はかかるはず。通勤や通学も大変なんじゃないかな」
住んでいる人は大変そうだな……。
私たちはまた歩き出した。
しかし、突然、孝宏君が「あっ」と言って足を止めたので、私も立ち止まる。
視線を追うと、道の向こうから誰かが歩いてくるのが見えた。
「あら、神楽坂君!」
歩いてきたのは、目の覚めるように綺麗な女の人だった。
つばの広い白い帽子をかぶって、水色のワンピースを着ている。
年齢は、孝宏君や私と同年代くらいに見える。
孝宏君の同級生かな?
「あ……九十九(つくも)さん」
つくもさん?
崎山君が言ってたっけ。
「まさか、こんなところでお会いするなんて。あら、そちらは?」
「えっと、こちらは来栖野佐那さん。わけあって、色々と彼女のお手伝いしているんです。こちらは九十九美麗さん。僕の同級生だよ」
孝宏君は少し動揺しているように見えた。
やっぱり、美麗さんのことが好きみたい……。
気になる子って言ってたし……。
それにしても、いきなり「お手伝い」って言っても、全く伝わらない気がする。
何か聞かれたら、私のほうから説明しなきゃ。
「初めまして、来栖野佐那と申します。『佐那』ってお呼びくださいね」
私は頭を下げた。
「初めまして、九十九美麗です。私も『美麗』でいいですよ」
美麗さんも礼儀正しく、頭を下げる。
挙措動作が洗練されているようにみえた。
「それで、お二人はお散歩ですか?」
美麗さんが聞いた。
さっきの「お手伝い」がどういう意味なのか、突っ込んで聞いてこないようだ。
しかし、口調にどこかトゲを感じるのは、私の気のせいだろうか。
「ええ、まぁ、そんなところです。九十九さんは?」
「私は家に帰るところですよ。あちらに見えますのが私の家です」
美麗さんは、さっき孝宏君と話題にしていたあの大きな家を手で指し示して言った。
あの家の人だったんだ。
あんなに大きな家に住んでるってことは、お嬢様なのかな。
そう言えば美麗さんには、そこはかとなく、上品さも感じられる。
でも……やっぱり……。
私のほうを見る目に、不快感というか嫌悪感というか……マイナスの感情が浮かんでいるように感じられて、私は黙り込んでしまった。
私、何もしていないのに、いきなり嫌われてる?
もしかして、美麗さんにとっての私って、「生理的に受け付けない」っていうタイプなのかな。
孝宏君も黙ったままで、数秒の時間が流れた。
すると沈黙を破って、美麗さんが口を開く。
「それでは、お散歩のお邪魔してはよくないので、私はこれで。神楽坂君、佐那さん、ごきげんよう」
「どうも、また明日」
孝宏君は軽く一礼した。
「それでは、また」
そう言うと、私も頭を下げる。
美麗さんは優雅な足取りで歩き去っていった。
「あの人が美麗さんですね」
私たちも再び歩き始めている。
「うん、まさかあのおうちが九十九さんのうちだったなんて。びっくりだね」
「その……まずいところを見られちゃいましたね……。何だか、ごめんね。孝宏君は美麗さんが好きなのに、この状況を見られてしまって、あらぬ誤解を与えてしまったかも……」
私は申し訳なくなって言った。
たしかに、美麗さんと孝宏君がお付き合いするようなことになると、私にとっては大ショックは間違いない。
だけど、孝宏君が美麗さんを好きということが分かった以上、私が邪魔をするようなことはあってはならないと感じたのだった。
孝宏君のことが好きだからこそ……。
一昨日初めて会ったばかりの私が邪魔していいわけがなかったし、そんな権利は私にはないと思う。
そもそも、孝宏君にはお世話になってばかりだし、これ以上迷惑をかけたくなかった……。
「いや……そんなこと、気にしなくていいよ」
孝宏君はすごく複雑そうな表情だ。
表情からは気持ちが全く読み取れない。
不安……。
私たちの間には、どことなく気まずい空気が流れてしまったけど、引き続きおしゃべりを続けながら歩いていった。