恋架け橋で約束を
夏祭りへのお誘い
夕飯後、キッチンでお皿洗いをしていると、電話が鳴った。
おばあさんがリビングへ電話を取りにいってくれたので、私は作業を続ける。
「孝宏~! 御木本君からお電話だよ!」
すぐに、おばあさんが叫ぶ声が聞こえた。
智君からかぁ、何の用事だろう。
お皿洗いを終えたあと、リビングへ戻ると、孝宏君とおばあさんが話をしていた。
「ばあちゃん、明日は夏祭りへ行くから、ちょっと帰りが遅くなるし、夕飯は遅めで」
孝宏君がおばあさんに声をかける。
「はいはい。佐那ちゃんと御木本君と一緒に行くのかえ?」
「うん、あと、もう一人、友達とね」
崎山君かな?
「それじゃ、佐那ちゃん、また僕の部屋でおしゃべりでもどう?」
「はい、是非」
そうして孝宏君と私は、階段を上がっていった。
「えっとね。びっくりなんだけど……」
部屋に入るとすぐ、孝宏君が言いにくそうな様子で口ごもった。
「明日の夏祭り、智と一緒に、九十九さんも来るんだって」
「ええっ!」
崎山君じゃなかったんだ……。
美麗さんがどうして……?
これで私の恋は完全に終わったと思った。
夏祭りを機に、孝宏君が美麗さんと仲良くなることは十分に考えられる。
二日前に出会ったばかりの私にとっては、どうすることもできないことだった。
「どうも智が九十九さんと仲がいいらしくて。でもあいつ、佐那ちゃんのことが好きって言ってたはず。あいつもよく分からないやつだなぁ」
「ええっ、孝宏君もご存知なんですね。その……智君が……」
「うん、聞いたよ。佐那ちゃんは智のこと、どう思う?」
答えにくい質問だ……。
「ええっと、まだ会ったばかりなので、どういう方かあまり分かってませんけど……いい人だと思いますよ」
「そうだよね、まだあいつのことよく知らないよね。急にこんなこと聞いてごめん」
「いえいえ」
孝宏君の様子から察するに、私のことを好きになってくれそうな気配は感じられない。
もし、少しでも可能性があるのなら、こんな質問をしてこないだろうし……。
話題をそらすため、私は言った。
「でも、よかったですね。美麗さんもご一緒ってことで……」
「ああ、うん、そのことだけど……」
孝宏君は、ややうつむき加減で言う。
「たしかに、入学時から気になってて、これまでずっと、まぁ……その……好きでいたんだけど、まだ九十九さんのことは何も知らなくて……。僕はまだ誰とも付き合った経験がなくてね。やっぱり、ある程度お互いのことを知ってからじゃないと、お付き合いするとかそういう段階まで進めないような気がするんだ」
ちょっと意外だった。
でも、そんなものかな。
同じクラスでも、あまりしゃべらない人だっているよね。
学校に関する記憶も一切ない私でも、そのくらいのことは想像できた。
「佐那ちゃんは誰かと付き合ったこと………ああ、ごめん……そうだったね。記憶が戻ってないのに、ごめんね」
付き合ったことがあるのかどうか、自分でも分からないのが切ないところだ。
「いえいえ」
まだ孝宏君と美麗さんがお付き合いするって決まったわけじゃないし、私にも希望は残されているけれど、お二人の邪魔をすることだけはしたくなかった。
もちろん、孝宏君への気持ちなら、誰にも負けない自信があるけれど……。
でも、美麗さんはあんなに綺麗な人だし、張り合う自信もなかった。
「明日、夏祭りまでの間、またどこか出かけよっか?」
孝宏君が言う。
「ええ、孝宏君さえよければ」
美麗さんのことを考えると憂鬱になるのに、こうして孝宏君と一緒にお出かけできるとなると、私の心は躍った。
それで満足していていいのかどうか、分からないけど。
それからしばらく、たわいもない雑談をした後、お風呂や歯磨きを済ませ、自室へと戻った。
すぐに電気を消し、布団に入る。
今日はすごく楽しかったけど、明日はどうなるのかな。
おばあさんによると警察からの連絡もないみたいだし……記憶を取り戻せる兆しすら見えていないし。
それに、孝宏君への恋も近いうちに頓挫しそうな気配……。
なんか、全てにおいて、お先真っ暗だなぁ………。
でも……。
どうせ私の恋が終わってしまうのなら、それまでに気持ちを伝えるのも、一つの手段ではないかと思えてきた。
多分しばらく気まずくはなっちゃうだろうけど、優しい孝宏君のことだから、もしお断りということになったとしても、いずれは普通に友達として接してくれるようになるかもしれないと思ったから。
そして、私が元々好きだった人のことも気になる。
もし記憶が戻れば、孝宏君とはお別れ?
その元々好きだった人にアタック再開?
………。
そんなの、今の私にとっては、はっきり「あり得ない」と言いきれる考えだった。
私は孝宏君が好き。
誰よりも。
また、迫ってくる七夕の日付も、私の不安を煽っていた。
その日に何があるのか、見当もつかないが、漠然とした不安が7月7日という日付に横たわっている。
何となく、この日までに自分の身元をはっきりさせたい、とそんな気になった。
でも、私がいくらやる気を出したところで、自分ではどうすることもできないのがもどかしい。
結局、警察や他の人に頼るしかなさそう……。
そんなことを色々と考えているうちに、いつしか私は眠りに落ちていた。
また私は夢を見た。
見知らぬ駅のホームに立つ私。
服装は……なぜか制服。
記憶を失っているせいで、どこの学校の制服かは分からない。
印象に残ったのは、セーラー服だということだけ。
しばらくすると、アナウンスが流れ、電車がホームに入ってきた。
おばあさんがリビングへ電話を取りにいってくれたので、私は作業を続ける。
「孝宏~! 御木本君からお電話だよ!」
すぐに、おばあさんが叫ぶ声が聞こえた。
智君からかぁ、何の用事だろう。
お皿洗いを終えたあと、リビングへ戻ると、孝宏君とおばあさんが話をしていた。
「ばあちゃん、明日は夏祭りへ行くから、ちょっと帰りが遅くなるし、夕飯は遅めで」
孝宏君がおばあさんに声をかける。
「はいはい。佐那ちゃんと御木本君と一緒に行くのかえ?」
「うん、あと、もう一人、友達とね」
崎山君かな?
「それじゃ、佐那ちゃん、また僕の部屋でおしゃべりでもどう?」
「はい、是非」
そうして孝宏君と私は、階段を上がっていった。
「えっとね。びっくりなんだけど……」
部屋に入るとすぐ、孝宏君が言いにくそうな様子で口ごもった。
「明日の夏祭り、智と一緒に、九十九さんも来るんだって」
「ええっ!」
崎山君じゃなかったんだ……。
美麗さんがどうして……?
これで私の恋は完全に終わったと思った。
夏祭りを機に、孝宏君が美麗さんと仲良くなることは十分に考えられる。
二日前に出会ったばかりの私にとっては、どうすることもできないことだった。
「どうも智が九十九さんと仲がいいらしくて。でもあいつ、佐那ちゃんのことが好きって言ってたはず。あいつもよく分からないやつだなぁ」
「ええっ、孝宏君もご存知なんですね。その……智君が……」
「うん、聞いたよ。佐那ちゃんは智のこと、どう思う?」
答えにくい質問だ……。
「ええっと、まだ会ったばかりなので、どういう方かあまり分かってませんけど……いい人だと思いますよ」
「そうだよね、まだあいつのことよく知らないよね。急にこんなこと聞いてごめん」
「いえいえ」
孝宏君の様子から察するに、私のことを好きになってくれそうな気配は感じられない。
もし、少しでも可能性があるのなら、こんな質問をしてこないだろうし……。
話題をそらすため、私は言った。
「でも、よかったですね。美麗さんもご一緒ってことで……」
「ああ、うん、そのことだけど……」
孝宏君は、ややうつむき加減で言う。
「たしかに、入学時から気になってて、これまでずっと、まぁ……その……好きでいたんだけど、まだ九十九さんのことは何も知らなくて……。僕はまだ誰とも付き合った経験がなくてね。やっぱり、ある程度お互いのことを知ってからじゃないと、お付き合いするとかそういう段階まで進めないような気がするんだ」
ちょっと意外だった。
でも、そんなものかな。
同じクラスでも、あまりしゃべらない人だっているよね。
学校に関する記憶も一切ない私でも、そのくらいのことは想像できた。
「佐那ちゃんは誰かと付き合ったこと………ああ、ごめん……そうだったね。記憶が戻ってないのに、ごめんね」
付き合ったことがあるのかどうか、自分でも分からないのが切ないところだ。
「いえいえ」
まだ孝宏君と美麗さんがお付き合いするって決まったわけじゃないし、私にも希望は残されているけれど、お二人の邪魔をすることだけはしたくなかった。
もちろん、孝宏君への気持ちなら、誰にも負けない自信があるけれど……。
でも、美麗さんはあんなに綺麗な人だし、張り合う自信もなかった。
「明日、夏祭りまでの間、またどこか出かけよっか?」
孝宏君が言う。
「ええ、孝宏君さえよければ」
美麗さんのことを考えると憂鬱になるのに、こうして孝宏君と一緒にお出かけできるとなると、私の心は躍った。
それで満足していていいのかどうか、分からないけど。
それからしばらく、たわいもない雑談をした後、お風呂や歯磨きを済ませ、自室へと戻った。
すぐに電気を消し、布団に入る。
今日はすごく楽しかったけど、明日はどうなるのかな。
おばあさんによると警察からの連絡もないみたいだし……記憶を取り戻せる兆しすら見えていないし。
それに、孝宏君への恋も近いうちに頓挫しそうな気配……。
なんか、全てにおいて、お先真っ暗だなぁ………。
でも……。
どうせ私の恋が終わってしまうのなら、それまでに気持ちを伝えるのも、一つの手段ではないかと思えてきた。
多分しばらく気まずくはなっちゃうだろうけど、優しい孝宏君のことだから、もしお断りということになったとしても、いずれは普通に友達として接してくれるようになるかもしれないと思ったから。
そして、私が元々好きだった人のことも気になる。
もし記憶が戻れば、孝宏君とはお別れ?
その元々好きだった人にアタック再開?
………。
そんなの、今の私にとっては、はっきり「あり得ない」と言いきれる考えだった。
私は孝宏君が好き。
誰よりも。
また、迫ってくる七夕の日付も、私の不安を煽っていた。
その日に何があるのか、見当もつかないが、漠然とした不安が7月7日という日付に横たわっている。
何となく、この日までに自分の身元をはっきりさせたい、とそんな気になった。
でも、私がいくらやる気を出したところで、自分ではどうすることもできないのがもどかしい。
結局、警察や他の人に頼るしかなさそう……。
そんなことを色々と考えているうちに、いつしか私は眠りに落ちていた。
また私は夢を見た。
見知らぬ駅のホームに立つ私。
服装は……なぜか制服。
記憶を失っているせいで、どこの学校の制服かは分からない。
印象に残ったのは、セーラー服だということだけ。
しばらくすると、アナウンスが流れ、電車がホームに入ってきた。