恋架け橋で約束を
孝宏君とお出かけ
雪乃さんと別れ、さて秘密の場所へ向けて出発、ってところで、往来から誰かが駆けてくるのが見えた。
それは、智君だった。
すぐに会釈を交わすと、智君が言う。
「二人とも、おめでとう!」
「えっ?」
お付き合い開始のことかな?
「うん、今日学校で、智や崎山には話したんだ。僕たちが付き合うことになったってことを」
「結局、俺の恋は叶わなかったけど、もう気にするのはやめた。これからは二人を全力で応援するよ」
智君はさばさばとした態度で言った。
あ……そういえば……。
私、告白されたのに、お返事していない!
そして、孝宏君とお付き合いを始めちゃってる……。
なんて酷いことを……。
「ご、ごめんなさい! 一緒に出かけたとき、告白してもらったのに、お返事もしないままで……」
頭を下げる私に、「気にしないで」と手を振る智君。
「いいってば。佐那ちゃんは最初から、孝宏のことを気に入ってたんでしょ。俺はそれに薄々感づきつつ、ダメモトで告白しただけだからさ。結局駄目だったけどね」
自嘲気味に言う智君。
私のせいで、何人もの人が傷ついてるんじゃ……?
雪乃さん、美麗さんもそうだし……。
私は、自己嫌悪にさいなまれつつあった。
「佐那ちゃんは何も悪くないから、そんなにしょげるなって」
明るく言ってくれる智君。
「それに、俺はもう次の恋に取り掛かろうとしてるから」
「えっ? 誰と?」
孝宏君が聞く。
私も気になった。
「まぁまぁ、うまくいってから話すよ。何度ふられても俺はめげないからな。ああ、そうそう。夏祭りのときはごめん。二人に謝らないとな」
何のことだろう……?
智君は続けて言った。
「美麗ちゃんと利害関係が一致して、作戦を決行してたんだぜ。俺は佐那ちゃんが好き、美麗ちゃんは孝宏が好き……ってことだから、夏祭りでそれぞれ急接近しようという計画。今思えば、佐那ちゃんと孝宏にとっては、いい迷惑だったなって思って、深く反省中」
肩を落とす智君。
こんな様子の智君、珍しいな。
「気にするなって。僕はこうして、佐那ちゃんと付き合い始めて、今すごく幸せだし」
「孝宏……佐那ちゃんを泣かせたら、いくらお前でも許さないからな!」
急に真面目な顔で智君が言う。
孝宏君も真剣な表情になった。
「もちろん。そんなこと、絶対にしないから」
「それを聞いて安心した。おっと、これからデートだったんだな、邪魔してごめんな。じゃあ、俺はこれで………あ、そうだ! その前に!」
会釈をして立ち去ろうとした智君が、回れ右をする。
「はい、これ!」
智君は、長方形の形をした、小さな紙切れのようなモノを、私たちの前に差し出した。
孝宏君が「何これ?」と言って、受け取る。
孝宏君の手にあるそれを見ると、「ライブハウス『とこぎり』定期ライブ・チケット 7月6日(日)」と書かれていた。
「ああ、明日のライブに、シンギング・ケバブも出るのか。そういえば、そんな話を崎山がしてたな」
たしかに、聞いたかも。
智君がボーカル、崎山君がベースだったっけ。
「二枚あるから。二人とも、是非是非、見にきてよ」
「うん、分かった! 崎山にもよろしく伝えておいて」
「智君、ありがとう!」
「それじゃ、俺はこのへんで。二人とも、デート楽しんでくるんだぞ。そして、明日、絶対ライブを見にきてね」
智君はウインクをした。
「うん、もちろん。あ、そうだった! 智と崎山は、夕方から何か予定はある? もしなければ、うちでバーベキューするんだけど、どうだ? 午後五時ごろから準備する予定だから、もしよかったらな」
「これから、明日のライブのリハと打ち合わせだけど、どんなに時間がかかったとしても、午後三時までには終わってるはずだし、参加させてもらうよ。崎山もそうだけど、他にも誰か誘ってもいい? もちろん、孝宏もよく知ってる人を」
「佐那ちゃん、いいかな?」
「うん、私は大丈夫。人数は多いほうが、楽しそうだし」
私の答えを聞いた智君が、苦笑しながら言った。
「佐那ちゃんやっぱりいい子だなぁ。くっそ~、孝宏に持ってかれちまった……」
私はどう言えばいいのか分からなかったので、黙っていた。
すると孝宏君が言う。
「僕の自慢の彼女だから。いくら智でも、絶対に渡さないよ」
「分かってるって。俺はまた新たな恋に生きるからな!」
力強く宣言する智君。
「それじゃ、また後でな」
智君はそう言うと、孝宏君と私に向かって、軽く手を挙げた。
私たちは会釈を交わす。
そして、智君は元来た道を引き返していった。
「なるほど、このチケットによると、シンギング・ケバブの出番は午前中だね。楽しみ」
「うん、すごく楽しみ!」
ライブと聞くだけで、私は待ちきれないほど楽しみになった。
私って、そういうにぎやかな場所も好きかも。
やっと、少しずつだけど、自分を取り戻してきているの……かな。
「それにしても、あいつの新たな恋のほうも、気になるね」
「智君って、モテてらっしゃるんでしょ?」
「まぁ、学校でもかなりの人気者だね。男女問わずに」
やっぱり、そっか……。
でも、智君には申し訳ないけど、私はどうしても孝宏君のことが好き。
「じゃあ、そろそろ僕らも出発しよう」
「うん、よろしく!」
私たちは秘密の場所へ向けて、静かに歩き出した。
それは、智君だった。
すぐに会釈を交わすと、智君が言う。
「二人とも、おめでとう!」
「えっ?」
お付き合い開始のことかな?
「うん、今日学校で、智や崎山には話したんだ。僕たちが付き合うことになったってことを」
「結局、俺の恋は叶わなかったけど、もう気にするのはやめた。これからは二人を全力で応援するよ」
智君はさばさばとした態度で言った。
あ……そういえば……。
私、告白されたのに、お返事していない!
そして、孝宏君とお付き合いを始めちゃってる……。
なんて酷いことを……。
「ご、ごめんなさい! 一緒に出かけたとき、告白してもらったのに、お返事もしないままで……」
頭を下げる私に、「気にしないで」と手を振る智君。
「いいってば。佐那ちゃんは最初から、孝宏のことを気に入ってたんでしょ。俺はそれに薄々感づきつつ、ダメモトで告白しただけだからさ。結局駄目だったけどね」
自嘲気味に言う智君。
私のせいで、何人もの人が傷ついてるんじゃ……?
雪乃さん、美麗さんもそうだし……。
私は、自己嫌悪にさいなまれつつあった。
「佐那ちゃんは何も悪くないから、そんなにしょげるなって」
明るく言ってくれる智君。
「それに、俺はもう次の恋に取り掛かろうとしてるから」
「えっ? 誰と?」
孝宏君が聞く。
私も気になった。
「まぁまぁ、うまくいってから話すよ。何度ふられても俺はめげないからな。ああ、そうそう。夏祭りのときはごめん。二人に謝らないとな」
何のことだろう……?
智君は続けて言った。
「美麗ちゃんと利害関係が一致して、作戦を決行してたんだぜ。俺は佐那ちゃんが好き、美麗ちゃんは孝宏が好き……ってことだから、夏祭りでそれぞれ急接近しようという計画。今思えば、佐那ちゃんと孝宏にとっては、いい迷惑だったなって思って、深く反省中」
肩を落とす智君。
こんな様子の智君、珍しいな。
「気にするなって。僕はこうして、佐那ちゃんと付き合い始めて、今すごく幸せだし」
「孝宏……佐那ちゃんを泣かせたら、いくらお前でも許さないからな!」
急に真面目な顔で智君が言う。
孝宏君も真剣な表情になった。
「もちろん。そんなこと、絶対にしないから」
「それを聞いて安心した。おっと、これからデートだったんだな、邪魔してごめんな。じゃあ、俺はこれで………あ、そうだ! その前に!」
会釈をして立ち去ろうとした智君が、回れ右をする。
「はい、これ!」
智君は、長方形の形をした、小さな紙切れのようなモノを、私たちの前に差し出した。
孝宏君が「何これ?」と言って、受け取る。
孝宏君の手にあるそれを見ると、「ライブハウス『とこぎり』定期ライブ・チケット 7月6日(日)」と書かれていた。
「ああ、明日のライブに、シンギング・ケバブも出るのか。そういえば、そんな話を崎山がしてたな」
たしかに、聞いたかも。
智君がボーカル、崎山君がベースだったっけ。
「二枚あるから。二人とも、是非是非、見にきてよ」
「うん、分かった! 崎山にもよろしく伝えておいて」
「智君、ありがとう!」
「それじゃ、俺はこのへんで。二人とも、デート楽しんでくるんだぞ。そして、明日、絶対ライブを見にきてね」
智君はウインクをした。
「うん、もちろん。あ、そうだった! 智と崎山は、夕方から何か予定はある? もしなければ、うちでバーベキューするんだけど、どうだ? 午後五時ごろから準備する予定だから、もしよかったらな」
「これから、明日のライブのリハと打ち合わせだけど、どんなに時間がかかったとしても、午後三時までには終わってるはずだし、参加させてもらうよ。崎山もそうだけど、他にも誰か誘ってもいい? もちろん、孝宏もよく知ってる人を」
「佐那ちゃん、いいかな?」
「うん、私は大丈夫。人数は多いほうが、楽しそうだし」
私の答えを聞いた智君が、苦笑しながら言った。
「佐那ちゃんやっぱりいい子だなぁ。くっそ~、孝宏に持ってかれちまった……」
私はどう言えばいいのか分からなかったので、黙っていた。
すると孝宏君が言う。
「僕の自慢の彼女だから。いくら智でも、絶対に渡さないよ」
「分かってるって。俺はまた新たな恋に生きるからな!」
力強く宣言する智君。
「それじゃ、また後でな」
智君はそう言うと、孝宏君と私に向かって、軽く手を挙げた。
私たちは会釈を交わす。
そして、智君は元来た道を引き返していった。
「なるほど、このチケットによると、シンギング・ケバブの出番は午前中だね。楽しみ」
「うん、すごく楽しみ!」
ライブと聞くだけで、私は待ちきれないほど楽しみになった。
私って、そういうにぎやかな場所も好きかも。
やっと、少しずつだけど、自分を取り戻してきているの……かな。
「それにしても、あいつの新たな恋のほうも、気になるね」
「智君って、モテてらっしゃるんでしょ?」
「まぁ、学校でもかなりの人気者だね。男女問わずに」
やっぱり、そっか……。
でも、智君には申し訳ないけど、私はどうしても孝宏君のことが好き。
「じゃあ、そろそろ僕らも出発しよう」
「うん、よろしく!」
私たちは秘密の場所へ向けて、静かに歩き出した。