恋架け橋で約束を
遊園地
電車と徒歩で一時間ほどかけて、ようやく私たちは遊園地前に到着した。
看板に「モカショコランド」と書かれている。
それを見たとき、頭に痛みが走った。
ここ数日で何度か経験している頭痛だ。
「どうしたの?! 大丈夫?」
しゃがみこんだ私の肩に、優しく手を置いてくれる孝宏君。
「ああ、うん。また頭痛がして……。私、この遊園地を知ってるかも。はっきりとは思い出せないんだ
けど」
「無理しないでね。無理そうなら違う場所に行ってもいいから」
「ありがとう。でもやっぱり、この遊園地に入りたい。頭痛は我慢できないほどじゃないし、それに、ここで何かを思い出せるのなら、そのほうがいいから……」
心配そうな顔をしたまま、孝宏君はうなずいてくれた。
「そうだね。それじゃ、行こう。ゆっくりでいいからね」
私たちはエントランスのほうへ向かった。
遊園地の中に入った私たちは、一通りアトラクションをまわることにした。
どこかで、私の記憶に引っかかる手がかりがつかめることも願いつつ。
でも、やっぱり、孝宏君と二人で目いっぱい遊べるという嬉しさが大きく、あまり記憶探しのことは頭の中になかった。
頭痛もいつの間にか、すっかり治っていたし。
まず、私たちはジェットコースターへと向かった。
何だか怖そうではあるけど、心ひかれるような気がして。
乗り込む前、赤い色のレールの先を見ると、一回転している部分もあった。
あそこ、振り落とされないのかなぁ。
怖い……かも。
孝宏君と並んで乗り込み、安全バーを下げられると、恐怖感が突如として膨れ上がった。
「大丈夫? 顔色がよくないよ」
孝宏君が心配そうに言う。
「うう……。私、こういうの苦手なのかも」
「どうする? 係員さんに言ってすぐ……」
孝宏君が言い終わるより先に、私たちの乗った列車は動き出した。
ゆっくりではあるものの、ぐんぐんと高度が上がっていく。
うう……気持ち悪い。
「これに乗ったの、失敗だったなぁ……。ごめんね」
「孝宏君のせいじゃないですよ。別に高いところが苦手ということもなさそうなんだけど……前方に線路が見えないから、心細くて。これからどうなるのか分からないのが、こんなに怖いなんて思わなかったぁ……。あの……その……手、握らせてもらってもいい?」
「もちろん」
孝宏君のほうから、私の手を握ってくれた。
孝宏君の大きな手が、私を安心させてくれる。
こんな状況なのに、孝宏君と手をつないでいるということに対しての嬉しいドキドキも止まらない。
うん、孝宏君と一緒なら……私、大丈夫。
どんな場所へも行けるし、何でもできる気分になった。
それでも、心のどこかに恐怖心は残っていたらしく、列車から降りると、私はもうフラフラだった。
ぐるっと回転するところでは、ものすごく気分も悪くなってたし……。
「怖かった~」
ようやく終わって降りてから、膝に手をついて言う私。
「ごめんね。いきなり、こんなのに乗せてしまって」
「ううん。私が言い出したんだから、孝宏君は謝らないで」
「じゃあ、気を取り直して、観覧車へ行こう! あれなら大丈夫なはず」
孝宏君と二人っきりになれるチャンス!
私の心は躍った。
観覧車に乗るため、私たちは行列の最後尾に並んだ。
すると、孝宏君が突然、私の肩を叩く。
「そこにいるの、智じゃない?」
孝宏君が指し示す方向を見ると、たしかに智君っぽい後姿の人が、私たちより二、三人ほど前に立っている。
「ほんとだ。服装も、さっきと同じ色だし、間違いないかも」
「だよね、ちょっと声をかけてみるね」
孝宏君はそう言うと、「智~」と呼んだ。
振り向いたその人は、やはり智君だった。
「あれ? 孝宏と佐那ちゃん! 二人もここに来てたのか」
せっかく前で並んでいたのに、順番を放棄して、私たちのほうへ来てくれる智君。
智君の後ろからついてきているのは………美麗さん!
二人で来てたんだ!
「九十九さん!」
孝宏君も驚いたようだ。
「神楽坂君、佐那さん、ごきげんよう。お二人も来てらっしゃったのね」
口元に微笑を浮かべて言う美麗さん。
私に対する視線に、今までのような険しさを感じない気がした。
「美麗さん、智君、こんにちは。奇遇ですね」
私はぺこりと軽くお辞儀をした。
「言いたいことは分かるぞ。『お前ら二人で何してんだよ』ってことだろ?」
孝宏君の顔を見ながら、智君が言う。
「そんなこと思ってないって」
「まぁいい。俺たちは俺たちでデート中なわけ」
さらっと言う智君。
美麗さんは否定する様子もなく、微笑が浮かんだままだ。
「そうだったのか、邪魔してごめん」
謝る孝宏君に、二人は「気にしないで」というようなことを言った。
そうこうしている間に、私たちがゴンドラに乗り込む順番が来て、智君と美麗さんがまず乗ることに。
「おっと、順番が来たか。そういうわけで、またな!」
「神楽坂君、佐那さん、それでは」
そし、て二人は先に乗り込んでいった。
直後に、孝宏君と私の順番が来て、すぐに乗り込む。
係員さんがゴンドラのドアを閉めてくれて、私たちは二人っきりになった。
「びっくりだね。あの二人が一緒にここに来てたなんて」
私もびっくり。
「ほんとだね。あの……孝宏君……。美麗さんと気まずくなってない? 私とお付き合いすることになったせいで……」
「心配要らないよ。さっきの会話で分かってもらえたかと思うけど、今まで通り普通に接しているからね」
「よかった……」
それにしても、雪乃さんや美麗さんには、私さえいなければ、孝宏君と交際できていた可能性があったことを思うと、心底申し訳なく感じた。
「ほら、景色を見ないと、すぐ終わっちゃうよ」
孝宏君が促す。
私はそっと窓から外を覗いた。
高度が上がるにつれ、やや遠くまで見渡せるようになっていく。
私たちがさっき乗ったジェットコースターの線路も見えた。
遊園地の外、かなり遠方には緑が見えている。
林か何かかな。
この街は、海も近いし、山もあるし、かなり自然が残っているように感じる。
「あそこ、お化け屋敷があるよ」
孝宏君が言う。
なるほど、ちょっと離れたところに、たしかに見えている。
「佐那ちゃんはお化けとか大丈夫?」
「別に怖くはないと思う……多分」
よく分からないので、そう答えた。
今はお化けよりも、「七月七日に何があるのか」ということのほうが怖いかも。
あと、自分の身元がずっと不明のままになるかもしれないと思うことも、本当に怖い。
「そっかぁ……」
ちょっと残念そうな孝宏君。
なんでだろ……。
まさか……孝宏君のほうが、お化け屋敷とか苦手なんじゃないかな?
「お化け屋敷、苦手?」
「僕? 別に苦手でも嫌いでもないよ」
あれ?
苦手じゃないんだ。
「じゃあ、あとで行ってみる?」
「うん、佐那ちゃんさえ、よければ」
じゃあ、なんでさっきがっかりしたのかな。
まぁ、細かいことはいいか。
いつの間にかゴンドラはてっぺんを過ぎ、ゆるやかに下降していく。
「半分、過ぎちゃったね。あっという間だなぁ」
私がそう言うと、孝宏君は優しく頭を撫でてくれた。
「また今度、乗ろう。やっぱり、佐那ちゃんと二人っきりの時間は、あっという間に過ぎてしまうなぁ」
「同感。また乗ろうね」
「うん、もちろん」
そして私たちは、ゴンドラから降りるまで、景色をじっくり目に焼き付けた。
そのあと、ゴンドラ内での会話の通り、お化け屋敷に入ることにした私たち。
お化けと聞いても、あまり怖そうな感じがなかったし。
これは大丈夫かも。
しかし、私の考えは甘すぎた……。
看板に「モカショコランド」と書かれている。
それを見たとき、頭に痛みが走った。
ここ数日で何度か経験している頭痛だ。
「どうしたの?! 大丈夫?」
しゃがみこんだ私の肩に、優しく手を置いてくれる孝宏君。
「ああ、うん。また頭痛がして……。私、この遊園地を知ってるかも。はっきりとは思い出せないんだ
けど」
「無理しないでね。無理そうなら違う場所に行ってもいいから」
「ありがとう。でもやっぱり、この遊園地に入りたい。頭痛は我慢できないほどじゃないし、それに、ここで何かを思い出せるのなら、そのほうがいいから……」
心配そうな顔をしたまま、孝宏君はうなずいてくれた。
「そうだね。それじゃ、行こう。ゆっくりでいいからね」
私たちはエントランスのほうへ向かった。
遊園地の中に入った私たちは、一通りアトラクションをまわることにした。
どこかで、私の記憶に引っかかる手がかりがつかめることも願いつつ。
でも、やっぱり、孝宏君と二人で目いっぱい遊べるという嬉しさが大きく、あまり記憶探しのことは頭の中になかった。
頭痛もいつの間にか、すっかり治っていたし。
まず、私たちはジェットコースターへと向かった。
何だか怖そうではあるけど、心ひかれるような気がして。
乗り込む前、赤い色のレールの先を見ると、一回転している部分もあった。
あそこ、振り落とされないのかなぁ。
怖い……かも。
孝宏君と並んで乗り込み、安全バーを下げられると、恐怖感が突如として膨れ上がった。
「大丈夫? 顔色がよくないよ」
孝宏君が心配そうに言う。
「うう……。私、こういうの苦手なのかも」
「どうする? 係員さんに言ってすぐ……」
孝宏君が言い終わるより先に、私たちの乗った列車は動き出した。
ゆっくりではあるものの、ぐんぐんと高度が上がっていく。
うう……気持ち悪い。
「これに乗ったの、失敗だったなぁ……。ごめんね」
「孝宏君のせいじゃないですよ。別に高いところが苦手ということもなさそうなんだけど……前方に線路が見えないから、心細くて。これからどうなるのか分からないのが、こんなに怖いなんて思わなかったぁ……。あの……その……手、握らせてもらってもいい?」
「もちろん」
孝宏君のほうから、私の手を握ってくれた。
孝宏君の大きな手が、私を安心させてくれる。
こんな状況なのに、孝宏君と手をつないでいるということに対しての嬉しいドキドキも止まらない。
うん、孝宏君と一緒なら……私、大丈夫。
どんな場所へも行けるし、何でもできる気分になった。
それでも、心のどこかに恐怖心は残っていたらしく、列車から降りると、私はもうフラフラだった。
ぐるっと回転するところでは、ものすごく気分も悪くなってたし……。
「怖かった~」
ようやく終わって降りてから、膝に手をついて言う私。
「ごめんね。いきなり、こんなのに乗せてしまって」
「ううん。私が言い出したんだから、孝宏君は謝らないで」
「じゃあ、気を取り直して、観覧車へ行こう! あれなら大丈夫なはず」
孝宏君と二人っきりになれるチャンス!
私の心は躍った。
観覧車に乗るため、私たちは行列の最後尾に並んだ。
すると、孝宏君が突然、私の肩を叩く。
「そこにいるの、智じゃない?」
孝宏君が指し示す方向を見ると、たしかに智君っぽい後姿の人が、私たちより二、三人ほど前に立っている。
「ほんとだ。服装も、さっきと同じ色だし、間違いないかも」
「だよね、ちょっと声をかけてみるね」
孝宏君はそう言うと、「智~」と呼んだ。
振り向いたその人は、やはり智君だった。
「あれ? 孝宏と佐那ちゃん! 二人もここに来てたのか」
せっかく前で並んでいたのに、順番を放棄して、私たちのほうへ来てくれる智君。
智君の後ろからついてきているのは………美麗さん!
二人で来てたんだ!
「九十九さん!」
孝宏君も驚いたようだ。
「神楽坂君、佐那さん、ごきげんよう。お二人も来てらっしゃったのね」
口元に微笑を浮かべて言う美麗さん。
私に対する視線に、今までのような険しさを感じない気がした。
「美麗さん、智君、こんにちは。奇遇ですね」
私はぺこりと軽くお辞儀をした。
「言いたいことは分かるぞ。『お前ら二人で何してんだよ』ってことだろ?」
孝宏君の顔を見ながら、智君が言う。
「そんなこと思ってないって」
「まぁいい。俺たちは俺たちでデート中なわけ」
さらっと言う智君。
美麗さんは否定する様子もなく、微笑が浮かんだままだ。
「そうだったのか、邪魔してごめん」
謝る孝宏君に、二人は「気にしないで」というようなことを言った。
そうこうしている間に、私たちがゴンドラに乗り込む順番が来て、智君と美麗さんがまず乗ることに。
「おっと、順番が来たか。そういうわけで、またな!」
「神楽坂君、佐那さん、それでは」
そし、て二人は先に乗り込んでいった。
直後に、孝宏君と私の順番が来て、すぐに乗り込む。
係員さんがゴンドラのドアを閉めてくれて、私たちは二人っきりになった。
「びっくりだね。あの二人が一緒にここに来てたなんて」
私もびっくり。
「ほんとだね。あの……孝宏君……。美麗さんと気まずくなってない? 私とお付き合いすることになったせいで……」
「心配要らないよ。さっきの会話で分かってもらえたかと思うけど、今まで通り普通に接しているからね」
「よかった……」
それにしても、雪乃さんや美麗さんには、私さえいなければ、孝宏君と交際できていた可能性があったことを思うと、心底申し訳なく感じた。
「ほら、景色を見ないと、すぐ終わっちゃうよ」
孝宏君が促す。
私はそっと窓から外を覗いた。
高度が上がるにつれ、やや遠くまで見渡せるようになっていく。
私たちがさっき乗ったジェットコースターの線路も見えた。
遊園地の外、かなり遠方には緑が見えている。
林か何かかな。
この街は、海も近いし、山もあるし、かなり自然が残っているように感じる。
「あそこ、お化け屋敷があるよ」
孝宏君が言う。
なるほど、ちょっと離れたところに、たしかに見えている。
「佐那ちゃんはお化けとか大丈夫?」
「別に怖くはないと思う……多分」
よく分からないので、そう答えた。
今はお化けよりも、「七月七日に何があるのか」ということのほうが怖いかも。
あと、自分の身元がずっと不明のままになるかもしれないと思うことも、本当に怖い。
「そっかぁ……」
ちょっと残念そうな孝宏君。
なんでだろ……。
まさか……孝宏君のほうが、お化け屋敷とか苦手なんじゃないかな?
「お化け屋敷、苦手?」
「僕? 別に苦手でも嫌いでもないよ」
あれ?
苦手じゃないんだ。
「じゃあ、あとで行ってみる?」
「うん、佐那ちゃんさえ、よければ」
じゃあ、なんでさっきがっかりしたのかな。
まぁ、細かいことはいいか。
いつの間にかゴンドラはてっぺんを過ぎ、ゆるやかに下降していく。
「半分、過ぎちゃったね。あっという間だなぁ」
私がそう言うと、孝宏君は優しく頭を撫でてくれた。
「また今度、乗ろう。やっぱり、佐那ちゃんと二人っきりの時間は、あっという間に過ぎてしまうなぁ」
「同感。また乗ろうね」
「うん、もちろん」
そして私たちは、ゴンドラから降りるまで、景色をじっくり目に焼き付けた。
そのあと、ゴンドラ内での会話の通り、お化け屋敷に入ることにした私たち。
お化けと聞いても、あまり怖そうな感じがなかったし。
これは大丈夫かも。
しかし、私の考えは甘すぎた……。