恋架け橋で約束を
バーベキュー
孝宏君と私が帰り着いたとき、すでにバーベキューの準備は、おばあさんと雪乃さんによって始められていた。
バーベキューは、おばあさんの家の裏庭で行われるようだ。
そういえば、ここでした三人での花火、楽しかったなぁ。
そのときは夜だったから周りがあまり見えなかったけど、今ははっきり見える。
けっこう広い裏庭なのに、芝や草木の手入れはきちんとされているみたいだった。
おばあさんがしているのかな。
もしそうなら、今度お手伝いしよう。
私たちもすぐに準備を手伝い始めた。
指示を出すのはおばあさんのようだ。
私を含む、他の三人は、指示通りにてきぱきと準備を進めていく。
私たちが手伝い始めてから五分ぐらいが経過した頃、大学生ぐらいの年齢に見える女性二人組がやって来た。
一人はショートヘア、もう一人は私と同じく長い髪、と対照的だ。
「雪乃~。ご招待ありがとう」
ショートのほうの人が言った。
「来てくれてありがとう。こちら、留美と冴子、あたしの友達」
私に向かって、雪乃さんが紹介してくれた。
二人とも、おばあさんや孝宏君とは会ったことがあるような様子だったので、私とだけ初対面みたい。
私たちは「初めまして」と言い、簡単な自己紹介をした。
それからさらに約十分後、崎山君がやって来た。
相変わらずの深いお辞儀と共に。
崎山君はみんなに挨拶に回っていった。
そしてその直後、また誰かが入ってきたみたいだった。
見ると―――。
智君と………美麗さん!
まさか、美麗さんが来るとは思ってなかったので、驚きのあまり呆然としてしまった。
たしかに、孝宏君も「別に気まずいわけでもない」とは言っていたけど。
智君と美麗さんも、挨拶の後、準備に加わってくれた。
やがて、準備は整った。
大勢で準備したので、かなり捗(はかど)ったように思う。
「じゃあ、始めようかね」
おばあさんの合図で、バーベキューが開始した。
すぐに、良いにおいが辺りに充満していく。
もう六時近いせいか、あまり暑くなくて過ごしやすい。
やや冷たいそよ風が、優しく裏庭に吹いている。
私たちはおしゃべりをしつつ、食べたり飲んだりを楽しんだ。
「佐那さん、ちょっといいかしら」
孝宏君、崎山君と三人で話しをしているとき、美麗さんが近づいてきて私に声をかけた。
「はい、もちろん」
「では、ちょっとこちらへ来てくださる?」
「は、はい……」
何だか怖くなる。
「あの、僕は?」
孝宏君が聞く。
「いえ、佐那さんだけにお話がございますので、すみません」
きっぱりと言う美麗さん。
お、怒ってないよね……。
怖い。
「まぁまぁ、気にするなって。じゃあ、そっちでしばし二人だけで話してくれば? さぁ、孝宏は、崎山と俺と三人、男子だけでワイワイやろうぜ」
「う、うん……」
そう言われてしまうと、孝宏君も何も言えないよね……。
「それじゃ、佐那さん、こちらへお願いします」
何か怒られるんじゃないかと思い、びくびくしながら美麗さんの後をついていった。
そして、裏庭の片隅にて立って話をすることに。
私の手には、ついうっかり持ってきてしまったコップがある。
置いてくればよかった……。
すごく動揺してるから、無意識だったよ……。
それにしても……何の話なんだろう。
不安が募る。
美麗さん……私が孝宏君とお付き合いすることになって、怒っているのかな……。
ちらっと、離れた場所にいる孝宏君に視線を向ける。
すると、ばっちり目が合った。
孝宏君も心配してくれてるみたい……。
「佐那さん、今まで本当に申し訳ありませんでした」
そう言って、深々と頭を下げる美麗さん。
え?
全く理由が分からなかった。
「今までの無礼な態度をお詫びいたします。ご存知かもしれませんが、私はずっと、神楽坂君のことをお慕いしておりましたので、彼と仲良くされていた佐那さんに嫉妬し、ああいう態度を取ってしまっていたのです。ですが、このたび、神楽坂君と佐那さんがお付き合いを開始され、私も御木本君とお付き合いしようかということになりましたので、ここで一つ、しっかりと謝っておきたいと思ったのです。改めまして、本当にすみませんでした」
またしても、崎山君のと同じぐらいの深さで、お辞儀をする美麗さん。
わざわざ謝ってもらえるなんて……。
予想していなかったせいか、ちょっと涙ぐんでしまった。
それに………。
智君と美麗さんがお付き合い?
智君の新しい恋って、まさか……。
びっくりではあったけど、その部分には触れないでおいた。
「いえ、気にしないでくださいね。私のほうこそ、七月一日にお会いしたばかりなのに、こうして孝宏君と交際することになってしまって……。何だか、すみません」
私も、心をこめてお辞儀をした。
「いえいえ、佐那さんは何も謝ることはありませんよ。私の険悪な態度で、さぞかし不快なご気分になられたでしょう……。お詫びの言葉もございませんわ」
「そ、そんなことないです。わざわざありがとうございます」
「佐那さんはお優しいんですのね。さすが、神楽坂君がお選びになった女性だけのことはありますわ」
美麗さんは、晴れ晴れとした笑顔と共に、そう言ってくれた。
こんな晴れやかな美麗さんを見たの、初めてだ。
「私にはもったいないお言葉です……」
何だか恐縮だった。
別に、私は美麗さんに対して、負の感情など一切なかったし。
それでも、美麗さんは気にしてくれてたんだ……。
「おや、神楽坂君と御木本君が、心配そうに見てらっしゃいますわね。それじゃ、戻りましょうか。ご面倒をおかけいたしました。お詫びを受け入れてくださって、嬉しいです。これから、仲良くしてくださいね」
「はい! こちらこそ、これからもよろしくお願いします」
私も自然と笑顔になり、美麗さんが差し出してくれた手を、しっかりと握った。
今まであまりよく分からなかったけど、美麗さんもやっぱりいい人だったんだ。
孝宏君が好きになった人なんだから、悪い人なわけないよね。
私たちは軽やかな足取りで、みんなのもとへと戻った。
「お? 話、終わった? じゃあ、美麗ちゃん、こっちこっち。俺の隣へ」
美麗さんに隣に座るよう促す智君。
美麗さんは笑顔で「はい」と言うと、そこに座った。
「おかえり」
私がそばに腰掛けると、孝宏君が声をかけてくれた。
どんな話をしてたの、とか聞いてこないあたりに、またしても孝宏君の気遣いと思いやりを感じる。
私は「ただいま」と言い、すぐに食べ物に手を伸ばした。
「これ、もう焼けてるよ。はい」
野菜をお皿に入れてくれる孝宏君。
どこまでも優しい。
「で、美麗さんと佐那さんは、いったい何のお話を?」
崎山君は堂々と聞いてきた。
「おい、崎山。ちょっとは場の空気を読めって」
智君が呆れたように言う。
「いえ、いいんですよ。佐那さんに、これまでの非礼をお詫びしました。佐那さんは快く許してくださった、ということで、本当にそれだけですよ」
「いえ、そんな、私は何も謝っていただくようなことをされてませんけど」
「じゃあ、もう美麗ちゃんと佐那ちゃんは友達だな」
嬉しそうに言う智君。
孝宏君の表情も明るくなった。
そして、私たちは再び、おしゃべりとお食事を思う存分楽しんだ。
バーベキューは、おばあさんの家の裏庭で行われるようだ。
そういえば、ここでした三人での花火、楽しかったなぁ。
そのときは夜だったから周りがあまり見えなかったけど、今ははっきり見える。
けっこう広い裏庭なのに、芝や草木の手入れはきちんとされているみたいだった。
おばあさんがしているのかな。
もしそうなら、今度お手伝いしよう。
私たちもすぐに準備を手伝い始めた。
指示を出すのはおばあさんのようだ。
私を含む、他の三人は、指示通りにてきぱきと準備を進めていく。
私たちが手伝い始めてから五分ぐらいが経過した頃、大学生ぐらいの年齢に見える女性二人組がやって来た。
一人はショートヘア、もう一人は私と同じく長い髪、と対照的だ。
「雪乃~。ご招待ありがとう」
ショートのほうの人が言った。
「来てくれてありがとう。こちら、留美と冴子、あたしの友達」
私に向かって、雪乃さんが紹介してくれた。
二人とも、おばあさんや孝宏君とは会ったことがあるような様子だったので、私とだけ初対面みたい。
私たちは「初めまして」と言い、簡単な自己紹介をした。
それからさらに約十分後、崎山君がやって来た。
相変わらずの深いお辞儀と共に。
崎山君はみんなに挨拶に回っていった。
そしてその直後、また誰かが入ってきたみたいだった。
見ると―――。
智君と………美麗さん!
まさか、美麗さんが来るとは思ってなかったので、驚きのあまり呆然としてしまった。
たしかに、孝宏君も「別に気まずいわけでもない」とは言っていたけど。
智君と美麗さんも、挨拶の後、準備に加わってくれた。
やがて、準備は整った。
大勢で準備したので、かなり捗(はかど)ったように思う。
「じゃあ、始めようかね」
おばあさんの合図で、バーベキューが開始した。
すぐに、良いにおいが辺りに充満していく。
もう六時近いせいか、あまり暑くなくて過ごしやすい。
やや冷たいそよ風が、優しく裏庭に吹いている。
私たちはおしゃべりをしつつ、食べたり飲んだりを楽しんだ。
「佐那さん、ちょっといいかしら」
孝宏君、崎山君と三人で話しをしているとき、美麗さんが近づいてきて私に声をかけた。
「はい、もちろん」
「では、ちょっとこちらへ来てくださる?」
「は、はい……」
何だか怖くなる。
「あの、僕は?」
孝宏君が聞く。
「いえ、佐那さんだけにお話がございますので、すみません」
きっぱりと言う美麗さん。
お、怒ってないよね……。
怖い。
「まぁまぁ、気にするなって。じゃあ、そっちでしばし二人だけで話してくれば? さぁ、孝宏は、崎山と俺と三人、男子だけでワイワイやろうぜ」
「う、うん……」
そう言われてしまうと、孝宏君も何も言えないよね……。
「それじゃ、佐那さん、こちらへお願いします」
何か怒られるんじゃないかと思い、びくびくしながら美麗さんの後をついていった。
そして、裏庭の片隅にて立って話をすることに。
私の手には、ついうっかり持ってきてしまったコップがある。
置いてくればよかった……。
すごく動揺してるから、無意識だったよ……。
それにしても……何の話なんだろう。
不安が募る。
美麗さん……私が孝宏君とお付き合いすることになって、怒っているのかな……。
ちらっと、離れた場所にいる孝宏君に視線を向ける。
すると、ばっちり目が合った。
孝宏君も心配してくれてるみたい……。
「佐那さん、今まで本当に申し訳ありませんでした」
そう言って、深々と頭を下げる美麗さん。
え?
全く理由が分からなかった。
「今までの無礼な態度をお詫びいたします。ご存知かもしれませんが、私はずっと、神楽坂君のことをお慕いしておりましたので、彼と仲良くされていた佐那さんに嫉妬し、ああいう態度を取ってしまっていたのです。ですが、このたび、神楽坂君と佐那さんがお付き合いを開始され、私も御木本君とお付き合いしようかということになりましたので、ここで一つ、しっかりと謝っておきたいと思ったのです。改めまして、本当にすみませんでした」
またしても、崎山君のと同じぐらいの深さで、お辞儀をする美麗さん。
わざわざ謝ってもらえるなんて……。
予想していなかったせいか、ちょっと涙ぐんでしまった。
それに………。
智君と美麗さんがお付き合い?
智君の新しい恋って、まさか……。
びっくりではあったけど、その部分には触れないでおいた。
「いえ、気にしないでくださいね。私のほうこそ、七月一日にお会いしたばかりなのに、こうして孝宏君と交際することになってしまって……。何だか、すみません」
私も、心をこめてお辞儀をした。
「いえいえ、佐那さんは何も謝ることはありませんよ。私の険悪な態度で、さぞかし不快なご気分になられたでしょう……。お詫びの言葉もございませんわ」
「そ、そんなことないです。わざわざありがとうございます」
「佐那さんはお優しいんですのね。さすが、神楽坂君がお選びになった女性だけのことはありますわ」
美麗さんは、晴れ晴れとした笑顔と共に、そう言ってくれた。
こんな晴れやかな美麗さんを見たの、初めてだ。
「私にはもったいないお言葉です……」
何だか恐縮だった。
別に、私は美麗さんに対して、負の感情など一切なかったし。
それでも、美麗さんは気にしてくれてたんだ……。
「おや、神楽坂君と御木本君が、心配そうに見てらっしゃいますわね。それじゃ、戻りましょうか。ご面倒をおかけいたしました。お詫びを受け入れてくださって、嬉しいです。これから、仲良くしてくださいね」
「はい! こちらこそ、これからもよろしくお願いします」
私も自然と笑顔になり、美麗さんが差し出してくれた手を、しっかりと握った。
今まであまりよく分からなかったけど、美麗さんもやっぱりいい人だったんだ。
孝宏君が好きになった人なんだから、悪い人なわけないよね。
私たちは軽やかな足取りで、みんなのもとへと戻った。
「お? 話、終わった? じゃあ、美麗ちゃん、こっちこっち。俺の隣へ」
美麗さんに隣に座るよう促す智君。
美麗さんは笑顔で「はい」と言うと、そこに座った。
「おかえり」
私がそばに腰掛けると、孝宏君が声をかけてくれた。
どんな話をしてたの、とか聞いてこないあたりに、またしても孝宏君の気遣いと思いやりを感じる。
私は「ただいま」と言い、すぐに食べ物に手を伸ばした。
「これ、もう焼けてるよ。はい」
野菜をお皿に入れてくれる孝宏君。
どこまでも優しい。
「で、美麗さんと佐那さんは、いったい何のお話を?」
崎山君は堂々と聞いてきた。
「おい、崎山。ちょっとは場の空気を読めって」
智君が呆れたように言う。
「いえ、いいんですよ。佐那さんに、これまでの非礼をお詫びしました。佐那さんは快く許してくださった、ということで、本当にそれだけですよ」
「いえ、そんな、私は何も謝っていただくようなことをされてませんけど」
「じゃあ、もう美麗ちゃんと佐那ちゃんは友達だな」
嬉しそうに言う智君。
孝宏君の表情も明るくなった。
そして、私たちは再び、おしゃべりとお食事を思う存分楽しんだ。