恋架け橋で約束を

花火、そして帰りゆく雪乃さん

 私たちが家に着いたとき、まだ雪乃さんは帰ってきていないようだった。
 キッチンではおばあさんがてきぱきと、夕飯の準備をしている。
 私たちは荷物を部屋に置いてから、おばあさんのところへ向かった。

「じゃあ、私も手伝いますね」
「おやおや、ありがとうね。孝宏はリビングで待ってなさい。もうすぐ完成だから」
「は~い」
 孝宏君はそう言うと、リビングのほうへ歩いていく。



 それから十五分も経たないうちに、夕飯が完成した。
「佐那ちゃんが手伝ってくれて助かったよ」
 そのとき、玄関から「ただいま~」という声がした。
「あら、雪乃だね。いいタイミング」
「ほんとですね」
 おばあさんと私は笑い合った。

 そして、テーブルにお皿を並べ、四人で楽しく夕食をとったのだった。



「じゃあ、花火といきますか!」
 夕食の後片付けが終わると、雪乃さんが言った。
 他の三人はすぐ、水の入ったバケツなどの準備をする。
 そして、全員で裏庭へと向かった。

「そういえば、三日前にも花火をしましたね」
 私は、おばあさんのほうを向いて言った。
「そうだね。あのときはまだ、二人はお付き合いしてなかったんだよねぇ」
「たしかに」
 おばあさんの言葉に頷く孝宏君。
 ほんとに……気持ちを伝えてよかった……。

「あーあ、あたしも混ざりたかったなぁ~。また今度、みんなで花火しない?」
 雪乃さんは、残念そう。
「雪乃姉ちゃん、もうすぐ夏休みだから、たっぷりできるでしょ」
「それもそっか」
 白い歯を見せる雪乃さん。



 最後に残っていた線香花火に火をつけて、みんなで楽しんでいると、急に切ない気持ちが湧き上がってきた。
 そう……明日は七月七日……。
 本来は楽しいはずの、七夕の日付なのに……私にとっては全く違う印象だ。
 漠然とした不安……。

「こないだ佐那ちゃんが言ってたけど……線香花火って、どことなく切ないね」
 孝宏君が言った。
 線香花火に照らされた横顔が、びっくりするくらい綺麗で、かつ凛々しく感じられる。
 思わず見とれるほど。
 


 やがて最後の線香花火も終わってしまったので、私たちは後片付けを始めた。
 私の心には、不安と心配が残ったままだったけど……。



「楽しかったよ~。みんな、またね!」
 玄関で元気良く言う雪乃さんに、私たちは見送りつつ「気をつけてね」「またね」と声をかけた。
「佐那ちゃん、早く記憶が戻るといいね」
 私を見て雪乃さんが言ってくれた。
「ありがとう。気をつけてね」
「うんうん、それじゃ、まったね~」
 そう言って手を振ると、雪乃さんは出ていった。

 ますます寂しさが増す私。
 その表情に気づいてくれたのか、孝宏君が言った。
「またすぐに会えるよ。さぁ、それじゃ、また僕の部屋へ行こう」
 私のこと、いつもよく見てくれているんだなぁと思って、ちょっと感動してしまう。
 今のは、きっと絶対、私が寂しい気持ちでいると察して、元気付けてくれたんだろう。
 私はおばあさんに軽く挨拶をしてから、孝宏君の後ろに続いて階段を上った。
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