恋架け橋で約束を
 その人は、私の片思い相手の車掌さんだった!
 私にとっては目新しく感じられる私服姿で、星を見上げているみたいだ。
 その表情はどこか憂いを帯びている。
 車掌さん………孝宏君………?

 ふと、私の視線に気づいたのか、その人はゆっくりとこちらを向いた。
 すると……目を丸くして、驚いた様子に変わる。
 そして、かすれた声で言った。
「佐那……ちゃん?」
「もしかして………孝宏君?」
 私の声も震えていたと思う。
「ほ、ほんとに……ほんとに、佐那ちゃんなの?」
 車掌さん……孝宏君……は、まだ信じられないようだった。
 今まで考える時間があったので、孝宏君よりは事態を把握しているはずの私ですら、信じ切れているかどうか疑問だもの。
 でも、信じなくちゃ。
 そして、孝宏君にも信じてもらわないと!

 私は、おもむろに右手をグーの形にすると、口に持っていった。
 すっぽり口におさまる右の握り拳(こぶし)。
「ぷっ」
 孝宏君はふきだした。
「あっ、ひど~い。笑わないでよ」
 口ではそう言いつつ、私も笑ってしまう。
 次の瞬間―――。
< 57 / 60 >

この作品をシェア

pagetop