bitter sweets
 「今日はお断り」


 私はぴしゃりと電話を切ることにする。

 「待って―――――!!なんでそんなこと言うのさー!たのむー!いくとこないんだからああああ!!」

 ああ、もう。

 「あのね、あんたね、いい加減にしなさいよ。彼女持ちの人に、彼女の誤解を招くことはしたくないの」
 「な!どうしてそれを!」
 「どうしてそれをじゃないわよ。いい?今日は家に帰りなさい」
 「じゃあ今日だけ。もうお泊りセット持ってきちゃったんだもん」
 「はあ?」
 「ああ、ほらタバコの火が落ちそうだよ、灰皿灰皿!」


 言われてあわてて灰皿に落とす。

 って、どこから見てるんだ?

 夜風の冷たいベランダで、あたりを見回すと電柱の陰から見上げる顔。なんなのあれはー。捨て犬か。

 「ほんとにもう、そんなところで立ってたら風邪ひくでしょ。あんたのお店だってあんたに休まれちゃこの年末のりきれないでしょうが」
 「だったらー、だったらおうちに入れてよー」

はああ。溜め息しか出ない。

 「だったら家帰れ」
 「ええええええ。もうすぐ電車なくなっちゃうじゃない。駅まで行って俺に駅で寝ろと??」
 「……もうね、今日だけだからね」
 「なんでー、もういいじゃん夏妃に彼氏がいるわけじゃないんだし」
 「あんたにいるでしょ!」
 「うん、だから俺の家に夏妃を泊めてるわけじゃないじゃん」

 
ああ。どうしてこう会話がかみ合わないんだろうか。

なんでわからないんだろうかねこの男は。


ここでこうして話してても埒が明かないので、また私はドアを開けてしまうのだ。

 
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