bitter sweets
 「ええ?また嘘を」

 「嘘じゃないよ。俺嘘つかないもん。俺が襲い掛かられているところを美羽に見られただけで、それから別に何もしなかったし」
 「信じられない。据え膳もされてないところにスライディングする勢いでかぶりつくタイプなのに!小寺が女と二人きりで何も起きないとかそんなの明日氷河期になるくらい信じられない」
 「お前な……。っていうか、女と二人きりなんて今だってそうなのに、何も起こらないじゃん」
 「それはお互いが異性認定してないからでしょ。そのかわいいお嬢さんとあんたが二人きりとではわけが違うんだから」

こたつの上を布巾で拭いていた私の手を、いきなり小寺がつかむ。

 「え、何?」

そう口を開いた瞬間、掴んだ手を引きよせると、小寺の唇が私のそれをとらえた。

驚いているうちに深くなる気配をはらんだ小寺を突き飛ばすと、眉間にしわを寄せて不機嫌そうに言った。


 「夏妃、タバコやめろ、キスがまずくなる」


 「ちょっと!何言ってるってか何してんのよ!」


私の声にはっとして小寺がまともにこちらを見るとにわかにうろたえる。


 「ご、ごめん、夏妃」

 みるみる顔色を変える。なんなんだ。顔色を変えたくなるのはこっちのほうだ。

 「誰かとお間違いなく!こんなことをしでかすならもうあんたを泊められない。二度と泊めないから」
 「や、ちょっと、ごめ、ほんと、もう絶対こんなことしないから」

捨て犬さながらにまゆを下げてすがるこの男は、いったい何を考えてるのかまるで分らない。

 「もう寝る!」

私は立ち上がって戸を閉めるとベッドに身を投げた。遅れてやってきた鼓動と唇の熱さに、涙が浮かんできて声を殺して泣いた。 
 
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