bitter sweets
 様子が目に浮かんで、私はこめかみを抑えた。

 それでも、だ。

 だったらお断りするという手があるのにまあ、小寺ときたら来るもの拒まずも大概にしろというレベルなんだから。
 いつか刺されるぞこいつ。こんな小寺でもどうにもならない気持ちに思い悩むときが来るんだろうか。私みたいに。もっとも小寺の事だからたとえそうなってもやすやすと相手を陥落できるだろうけど。

 「ってかなんで酒井さんと夏妃がそんな話してるわけ?」
 「ライバル店とは申しましても、お互いにチーフとして頭を悩ませることが多いのよね、誰かみたいなのがいるからさ」
 「俺みたいのが夏妃の店にはいないと思うけどもー。いつからそんなに親しくなったの酒井さんと夏妃は」
 「親しくしてるわけじゃないけど、たまに飲みに行ったりしてるだけだけど、何?酒井さんに弱みでも握られてるわけ?」
 「次は俺も誘って」
 「えー?なんで?」
 「えー?なんで?俺がいちゃダメなの?」

なんだこの仲間はずれひどいってな空気は。

 「せっかく男前と二人で飲めるのに、あんたがいたんじゃお邪魔虫です」
 「夏妃、男前の酒井さんのこと好きなの?」

棘のある言い方にいささかむっとする。私なんぞが酒井さんには相手にされないみたいな上から目線を漂わせる。小寺は時々そういうところすごく嫌な感じになる。

 「小寺には関係ない、ごちそうさまでした」
 「関係なくない」

立ち上がりかけた私の手を掴む。

 「ちょっと、なによ?」
 「夏妃もいい年なんだから、もうちょっとちゃんと考えろよ」
 「どういう意味?」
 「簡単にホイホイ男についていくなってことだよ」



その言葉を聞いた瞬間、私は堪忍袋の緒が切れるどころか、袋自体が飛んで爆ぜた。
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