【完】キミと生きた証
「さむくねえか?」


「うん。これが、あったかい・・。」




両手で赤いマフラーをぎゅっと握って、白い息が漏れる。



俺が頬を撫でると、ちとせは真っ赤な顔して体を前に向き直した。



俺たちの間に得意の沈黙が流れて。



「なんか・・・懐かしいなぁ・・・。」



愛しそうにちとせが呟く。




ツリーに向かう途中の商店街の様子も、天から舞う雪も


まるでなにもかも目に焼き付けようとしているみたいに、ちとせの大きな瞳がじっと見つめてる。




「ここ・・・瞬が、待ってろって言って、あたしをおいてっちゃった・・・本屋さんだ。」


「うん。」


「あの日ね・・・友達にメイクしてもらってね。嬉しくて・・。」


「あぁ・・そういえば、本屋のガラス見てにこにこしてたもんな。」


「・・・もぉ。ふふっ。・・でも、そう。鏡みたいにして見てたの。そしたら瞬が・・走ってきて。」


「うん。」



「あったかいマフラー・・・。嬉しかった・・。」




ちとせは再び俺の方を振り返って、大きな瞳でみつめた。






「瞬みたいに・・・優しくって・・あったかい人に出逢えて、すきになって・・・よかった。」




悲しげな瞳が、俺を見つめてる。





・・・甘い言葉は、こんな顔で言うんじゃない。




もっと・・前みたいに。


・・・はにかんで、笑って、照れながら。



そういう顔して言え。



なんで泣きそうな顔で言うんだよ。



なんで・・悲しんでんだよ。



まるで・・・・諦めたみたいに。




・・・あの日の思い出を・・勝手に遠い過去の思い出にするな。



人生の終わりにいるみたいな・・世界の観かた、するんじゃねえ。




「・・・瞬?行かないの?」


「あ・・・うん。行く。」


「ゆーっくり、いこっかぁ。」


「・・・ん。そうだな。」



俺は唇をかみしめながら、車いすを押した。


涙が出そうになるのをこらえて、絶対ちとせにばれないように。





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