黒愛−2nd love−
叶多くんがいない……
席札には確かに彼の名前があったのに、まだ来ていない。
来ないつもりだろうかと心配した時、
会場がザワザワし、皆の視線が入口に向けられた。
入口のガラス扉が開いて、ものすごく不機嫌そうな顔した叶多くんが、
三ノ宮沙也子に背中を押されて入ってくる。
久しぶりに見る彼の姿に、胸がトクトク高鳴った。
高そうなスーツでキメキメで来ているお坊ちゃま達と違い、彼は普段着だ。
グレーのパンツに、黒いTシャツ。
その上に無理やり着せられたような、紺色ジャケットを羽織っている。
やる気ゼロのスタイルでも、この会場の誰より素敵だった。
叶多くんは大人達のテーブルの、理事長の隣に座らされていた。
三ノ宮沙也子が、マイクの前で挨拶を始める。
招待された生徒達の学園への貢献に感謝すると言った内容だが、
その話は私の頭に留まらず、聞き流される。
五感の全てが叶多くんに向いていた。
早く彼のそばに行きたくて、ウズウズしていた。