黒愛−2nd love−
私が注目したのは、トイレから出てきた男子生徒。
彼は右手だけに、白い布手袋をはめている。
どうやら、ドアの取っ手に直接触れるのが嫌みたい。
トイレから出たあとは、手洗い場に直行。
左手に水滴がついているところを見ると、
きっとトイレの洗面台で洗ったばかりなのだろう。
それなのに、手洗い場でまた手を洗っている。
潔癖症が、行き過ぎたタイプか……
彼をジッと観察しながら、
久美に頼み事をする。
「ねぇ久美、あの男子に軽くぶつかってみてくれる?」
「え? なんで?」
「なんか気になって。
生活指導部長としては、何かしでかしそうなタイプの人を、チェックしておかないと」
「そっかー!
うん、分かった。やってみるよ」
私の言葉なら、何でも信用してしまう久美が、
ごしごしジャージャー手を洗い続けている彼に近づいて行く。
後ろを通り過ぎるふりして、
彼の背中に軽く腕をぶつけた。