運命の人
伴奏が終わると同時に指揮も終わる。
やりきった。
わたしは客席へ振り返って礼をしようとした時。
大きな拍手とともに歓声が上がった。
笑顔で拍手する人、泣きながら拍手する人。
わたしは全身に鳥肌が立つようだった。
みんなで礼をするとまた大きな拍手が起こる。
ふいにもわたしは泣いてしまった。
クラスの女子の大半も泣いている。
うまくいったね。
「みなさんの心に届いたようですね」
そう言って加宮さんも目元をゴシゴシしている。
わたしはさりげなく綾野を見てみた。
笑っていた。満足そうに。
前の綾野に戻ったように思った。

わたしたちのクラスは準優勝だった。
後のクラスに負けてしまった。
あのハゲ(校長)の八百長だとみんな怒っていたのを覚えている。
でも、優勝はできなかった。
校長室に殴り込むと聞かない加宮さんを押さえながらわたしは内心、優勝でもなくてもいい気がしていた。
だって満足できる歌だったもん。
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