運命の人
綾野の声だった。
わたしは綾野に抱きついていた。
「汗臭かったらごめんな。もう少しで展望台だからそれまで我慢な」
汗臭くなんてない。
ふんわりとした甘い香り。
「…うん」
そこからお互い無言だった。
正面には綾野。
顔をあげたらきっと綾野と目が合う。
すごく、ちかい。
頭が綾野の胸にくっついている。
すごくドキドキしていた。
きっとわたしもドキドキしている。
「…も、もうすぐつくぞ」
綾野の声に反応して顔を上げた。
「あ」
綾野の顔が目の前だ。
綾野もわたしを見ていたようで、すごくちかい。
恥ずかしい。
顔をそらしたいのに、ただお互いの顔が赤くなるのを見つめているだけだった。
不思議。
この人といるとすごくワクワクしてソワソワしてドキドキする。
時々胸がクッと苦しくなる。
なんなんだろうこの感情は。
〝はじめて〟だからわからない。
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