運命の人
「心を込めて…って難しいかもね意外と」
わたしがそう言うと加宮さんはメガネをカチャっとする。
「簡単ですよ、由梨香さん。好きな人を思い浮かべればいいんです」
好きな人…。
「わたしたちは歌いませんので深呼吸です」
「そ、そだね」
指揮者ってすごく、緊張する。
文化祭のオープニングが始まって、1組から順に歌っていく。
「…楽勝ですね」
1組の歌を聴いて加宮さんはニヤニヤしている。
まとまりがなくてちょっと…。
さっそく、次はわたしたちのクラス。
ドキドキする。
わたしが先頭で歩いて後ろに加宮さんに続きクラスのみんな。
体育館の壇上に上がって、わたしは指揮者の台に上がってみんなの用意ができるのを待つ。
足音と時々、咳やくしゃみの音が聞こえるだけの静まっている体育館。
みんなが整列し終わったらところでわたしは一人一人の目を見る。
みんながわたしのことを見て頷く。
わたしは加宮さんに目を向けて頷く。
加宮さんが鍵盤に指を置く。
わたしは指揮棒を振った。
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