初めての恋はあなたと。番外編
「ありがとう」


たった一言だったけど。


「千夏?何故泣くんだ?」


それだけで胸が温かくなり、さっきまで抑え切れていた涙が頬を濡らした。

和也さんは不思議そうな顔をしながらも、心配そうに私の顔を覗き込む。


「だ、大丈夫ですからっ…」

「説得力がないな」


またも和也さんに笑われてしまった。

確かに、泣いているのだから大丈夫な訳がない。
しかし自分でも何で泣いているのか分からず、大丈夫だとしか言えなかった。



結局和也さんは私が落ち着くまで側にいてくれた。


「あの、そろそろ帰りますね」

「あぁ…一人で帰れるか?」

「帰れますよ!私これでも24ですよ?」

「分かった分かった」


クスクス笑う和也さん。

もう!この人私のこと絶対からかってるよ‼︎

そう思いながら、コートを羽織りカバンを持って玄関に向かった。


「気を付けて。何かあったらすぐ電話しろよ?」


時々和也さんがお父さんに見える。
もうとにかく心配で仕方ないというのか…。
そんなに私は子供扱いされているのかな?


「大丈夫ですよ!じゃあお邪魔しました」


おやすみなさいと言って外に出ようとした時。
和也さんに名前を呼ばれて振り返った。

その瞬間、唇に何か柔らかいものが触れた。この感覚は以前にも一度だけある。

これは…。


「おやすみ」


真っ赤な顔をしてその場に立ち尽くす私とは違い、満足そうに微笑む和也さんが少し憎く思ったのは秘密である。
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