初めての恋はあなたと。番外編
「な、何もないですよ!」


わざと明るく振る舞えば。


『本当か?』


和也さんに余計怪しまれてしまった。

どうしよう。
相談はしたいけど言ったら絶対に引かれるよね…?


『千夏』


黙ってしまった私に、和也さんは優しく名前を呼んでくれる。

それはいつも私が、言いたいことがあっても言えない時の私の名前の呼び方。

その優しい呼び方に絶対言えないと思っていることでも、自然と気持ちが軽くなり口が開く。

今だって例外ではない。


「あの、絶対に引かないで下さいね…?」


そうだよね…和也さんはいつでも私をちゃんと受け止めてくれる人だ。

確かに不安は残っているけれど、言わないと和也さんを不安にしてしまうかもしれない。

それはどうしても避けたい。

そう思い、勇気を振り絞って言ったのだ。


『あぁ。どうした?』

「…初めてって重いですか?」


そして訪れる沈黙の時間。

やっぱり引かれた?
いや、絶対に引かれたよね…。
こいつは何を聞いているんだとか思われた?

沈黙の時間が凄く長い時間に感じられた私は、不安が今までに無いぐらいのスピードでやって来ていた。

何も言えず、ただ和也さんの返事を待つだけ。

電話を持つ手が微かに震え始めた時。


『千夏』


と、和也さんの優しくて、でもどこか真剣そうな声が聞こえた。
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