初めての恋はあなたと。番外編
和也さんはボタンをはずしたかと思えば、胸元に顔を近付けた。

そして「チュッ」とリップ音を立て、和也さんの唇は名残惜しそうに離れていった。
それと同時に和也さんも私から少し離れる。


「本当はもう少し強く付けたかったが…まあいいか」


そう言いながら、ブラウスのボタンを止めてくれた。

当の私は和也さんの言葉に返事することも出来ず、身動きすらとることが出来なかった。

私何されたの?
ただのキス…ではなかったよね?
…じゃあ何?

ダメだ。
頭が全く動かない。

何故私の頭はこう毎回働いて欲しいところで働かないのか。

身動き出来ない私とは違い、冷静でいて尚且つ余裕そうな和也さんは腕時計を見て、


「戻ろうか。きつねそばが冷めていたらすまない」


と言って歩き出してしまった。

…まさかの放置ですか⁉︎


「千夏?戻らないと昼休みが終わるぞ」

「江崎課長のせいですよ!」


小走りで和也さんに追い付き、横に並んだ。

社員の声が近づいてくる。
食堂に近付いているからだろうか。

機嫌を損ねたフリをすると、和也さんは困った風に笑って


「仕方ないだろう?千夏のことが好き過ぎてどうしようもないのだから」


サラリと言った。

私は毎度恒例のように、何も言えず口をパクパクとさせるだけ。

スルースキルなんてこれっぽっちもない。


「…煽っているのか?」

「あ、煽ってなんかいません!というか、こんな風にしたのは江崎課長でしょ‼︎」



キスマークをつけられたことに気付き、由依から「愛されてるわねー」としみじみ呟かれたのは、もう少しあとのことである。
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