初めての恋はあなたと。番外編
あの子、順調だって言ってたのに…閻魔課長は変わらずなのね。

周りの雑音で江崎課長の声は聞こえないが、表情はいつも通り恐ろしい。

ああ、また犠牲者が…。

営業課の社会人一年目の女の子が、江崎課長の前で泣いているように見える。
それか泣くのを必死で我慢しているように。

あの人が本当に微笑むのかしら。
いつも思うけど、千夏が見ている幻覚じゃないの?

なんて疑問に思っていると、後ろに人の気配を感じた。


「有村さん」

「…原さん」


ニコニコと笑うのは、営業課エースと言われる原さん。
細身のスーツがよく似合う、大人の男性だ。


「何かご用でしょうか」

「今日空いてる?」


周りに聞こえない声量で原さんは私の耳元で囁いた。
耳元で囁かれた低音ボイスに心臓がはね上がる。


「…ええ空いてますが」

「そっか。じゃあ定時後にいつものところで」


そう言ってもう一度微笑んだ原さんは、相変わらず怖い顔をした江崎課長の元に戻っていった。
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