初めての恋はあなたと。番外編
「反則」


その一言が聞こえた時には、既に私は和也さんの腕の中にいた。

和也さんはいつの間にか立ち上がっていて、私は訳が分からないまま抱きしめられている。

何で今抱きしめられているの?
反則ってどういうこと?

次々に出てくる疑問を処理出来ない私に、和也さんは黙ったまま。

何か言ってほしい。
何でもいいから…。
反則って言葉だけじゃ私分からないよ…。

黙ったままの和也さんに不安を感じたのだろうか。
訳も分からず泣きたくなってきて、我慢しようと和也さんのコートをギュッと掴んだ。


「…無自覚でやっているのか?」


頭上からやっと聞こえたのは、和也さんの呆れたような声。

その呆れたような声に、さっきまで我慢していた涙が頬を伝わった。


「千夏?」


急に泣き出した私に、和也さんは焦った声でありながらも優しく名前を呼んでくれた。

そして頭を撫でてくれる。

その行為に涙の量が増えたのは当然だ。


「か、和也、さん…」

「何だ?」

「嫌いに、ならないで…」

「何でそうなるんだ」


詰まりながら必死に訴えれば、和也さんは苦笑しながら頭を撫でていた手を戻し、ギュッと抱きしめてくれた。
< 84 / 123 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop