初めての恋はあなたと。番外編
10.とある課長のクリスマス
12月25日。
今年もクリスマスがやってきた。
いつも通り出社すると、総務のフロアにはいつも通り彼女がそこにいた。
「小西さんおはよう」
そう声をかけると、
「あ、北野課長おはようございます」
とはにかみながら挨拶をした。
ああこのはにかみに彼はやられたのかと一人納得する。
「今日はクリスマスだね。江崎課長と過ごすの?」
コートを脱ぎながら何気無く問うと、小西さんは黙ってしまった。
何かまずいことを言ってしまっただろうか。
そう不安になり、「小西さん」と声をかけた。
「江崎課長昨日から出張で…帰ってくるのが遅くて会えないんです」
しゅんと、悲しそうに呟いた。
…聞かなければ良かった。
よくよく考えてみたら、つい先日彼が総務に出張手続きで来ていた。
もちろん出張日だって知っているし、なんならいつ出発していつ帰ってくるのかも知っている。
そのくせに、彼女にあんなことを聞くなんて。
すっかり落ち込んでしまった小西さんに俺は何も言えなかった。
「だ、大丈夫ですよ?確かにクリスマスは一緒に過ごせないかもしれませんが、いつも一緒にいてもらっているので十分です!」
「…そう。小西さんは愛されているね」
「え!何でそうなるんですか⁉」
微笑みながら言えば、小西さんは顔を赤く染め焦り出した。
小西さんは純粋で、どこまでも素直だ。
そこが彼女の最大の魅力なんだろう。
しかし…多分あの発言は無自覚。
江崎課長も相当苦労しているはずだ。
「北野課長、どういうことですか!」
気になって仕方がないといった表情で迫る彼女に、俺はお茶を飲みながら「そうだねー」とはぐらかすのだった。