初めての恋はあなたと。番外編
「ただいま」
「おかえりなさい」
20時を過ぎた頃。
そう言って出迎えてくれたのは、妻の瑞希さんだった。
俺よりも3つ年上であるはずなのに非常に若く見える。
もう50を過ぎているのに、下手したら40…いや、30代と言われても納得出来るほど。
「あれ、遥と良樹は?」
鞄を渡して部屋の中に入り、辺りを見回して気付いた。
24の娘と22になる息子の姿が見えない。
「遥は会社の友達とお泊まり会でしょう?良樹は彼女とお泊まりよ」
「あ、そうだったのか」
どうやら、今夜は二人きりらしい。
んー…何だか緊張するな。
遥か良樹のどっちかが家にいて、二人きりだなんて滅多になかったからだ。
「正君、夕食冷めるわよ?」
…彼女はそんなことないらしい。
いつも通りの口調と表情で、俺に夕食を催促してくる。
緊張してるのは俺だけだろうか?
「ちょっと正君!本当に冷めるわよ!」
「ごめんごめん。すぐに用意するから」
何十年も前から変わらないやりとりに、苦笑いをしながら着替えるために寝室へ向かった。