初めての恋はあなたと。番外編
「…わ、分かってるくせに」

「何が?」


なかなか答えてくれない瑞希さんに、そろそろ限界かもしれない。


「…正君ってそんなに意地悪だった?」

「さあね」


そう言って立ち上がり、グッと瑞希さんを引っ張った。
瑞希さんは突然のことに驚いたのか、「キャッ」と小さく悲鳴を上げた。

引っ張った衝動で傾いた瑞希さんをギュッと抱きしめた。

ふんわりと、落ち着く香りがする。


「ま、正君?」

「仕方ないよ。瑞希さん言うのが遅いから」


そこから瑞希さんの返事はなかった。
それでも気まずい雰囲気にはならなかった。

伊達に夫婦歴は長くないと一人で考える。


「…今もよ」

「え?」

「今も昔も同じよ!」


呑気にそういえば夫婦歴何年になるのだろうかと考えていた俺は、瑞希さんの突然の発言についていけなかった。

瑞希さんはというと、黙ったまま俺にしがみついてきた。

ああもう。
このギャップは相変わらずなんだから。

言うことは素直じゃないのに、することは子供みたいに素直。

絶妙なタイミングで出してくるのは、きっと無自覚なんだろう。


「ちょ正君!いい加減離して‼」

「今すぐは無理かな、もう少しこのままで」

「もう少しってどのくらいよ⁉というか離してよ!お風呂入れないし、プレゼントも渡せないでしょ!」


プレゼントは瑞希さんでいいよ、と言いたかったが、そう言うと次に何が起こるか分からないので諦めた。

しかし、もう少し抱きしめるのは許して欲しい。

せっかくの二人きりのクリスマス。

もう少し、この甘い雰囲気を味わいたい。


「もう…今日だけよ?」


そう渋々言う瑞希さんを抱きしめながら感じていた。




「正君」

「ん?」

「メリークリスマス…大好きよ」


…不意打ちとはこういう事をいうのか。

そう感じた、二人きりのクリスマスだった。
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