白い月~夜明け前のその空に~
「嘘じゃねーって。でも本当によかったじゃん。悪かったな、できないなんて言って。仲良くやれよ」
陸はにこやかな笑顔でそう言って、ハンカチを優月に渡すと、彼女の言葉をそれ以上聞くことなく出て行った。
優月は陸が出ていった方を向いたまま、自分の言った言葉に後悔が襲っていた。
彼氏だなんて嘘。
付き合っているふりをしているだけ。
(よくないよ…。もっと、残念そうにしてよ…。何で喜んでんの)
治りかけた指を見ながら、涙で視界が歪んでいく。
“付き合っているふり”は、学校内だけでのシナリオで、陸に伝える必要はないものだと思っていた。
まさか、こんな形で言ってしまうことになるとは彼女は思いもしなかった。
(治ってきたのは、魔法の…、魔法の絆創膏だって言ってくれたお陰なのに)
かさぶたになった傷口に、ぬぐった涙が染みた。