白い月~夜明け前のその空に~
何のてらいも無く、真っ直ぐに優月を見つめながら、彼は本当の気持ちを打ち明けた。
その潔さと素直さは、心にすうっと爽やかな風が吹くようだった。
別れ際の歯をほんの少し覗かせ、はにかむような笑みには、つられて彼女も微笑んでいた。
満月が二人の上で輝いていなければ、ここまで穏やかでいられなかっただろう。
月明かりが、照れも嘘も誤魔化しも包みこみ、素直さだけを引き出してくれたのかもしれない。
けれど全部ではなかった。
この時に本当に心から素直になれていたのなら、彼女の抱えている想いが、今日のあの出来事でさらに秘密を強くすることもなかったはず。
自分に好意を寄せてくれている長澤に、このまま自分も好きになれば、きっと陸の想いも簡単に消えていく。
でもそんな都合よくいくはずがない。
許されない。
とっくの前に、そんなこと分かっていた。
子供の頃にもした、その似たような安易な想像は、見事に打ち砕かれたのだから。