白い月~夜明け前のその空に~
ポスッと軽く陸の肩にパンチをした。
「バカって言うなっ」
「いてー。はは、さぁて、俺はもう寝るけど、ゆづもそろそろ寝ろよ。明日寝坊しても起こしにこないぞ?」
「分かってる」
優月がそう言って少し頬をむくれてみせたのは、バカにされただけが理由ではなかった。
「じゃあな、おやすみ」
「…おやすみ」
陸が出ていった後の部屋は、ついさっきまで流れていた淡く優しい空気の余韻がした。
直接彼に肌を触れられたわけでもないのに、それ以上に甘く痺れるような感覚が、髪の毛を通して全身へ送られた。
熱とドキドキはベッドに入っても、なかなか静まることはなかった。
そしてそれは陸も同じだった。
優月の恥らう視線、髪の香り、彼女の体温、全てが陸の心を満たし、それが少しじれったくもさせた。
何故なら、近づきたいその衝動は自分の中でブレーキをかけてもいたから。