白い月~夜明け前のその空に~
あの家の中で、自分がいる理由は何?
彼が背負うものを、自分ではどうしようもない。
でもせめて手助けになりたい、厚かましいかもしれないけど。
そんな思いが彼女の中で必死に駆け巡った。
そうでもしないと、もう何だか笑えそうにもなかったから。
「…おめでとう、陸。でもごめん、まだ遠くにいかないでっ」
声にやっと出せたその言葉は、彼に届いていたかは定かじゃない。
けれど、その後振り向いた彼からは、いつもの口調が飛んできたのだった。
「おせーよ、先家着いちゃうぞ!」
「……ふふ。待ってよ!」
どんなに大人に近づこうとも、やっぱり変わっていない、つい出てしまうしっかり者のお兄ちゃんの姿。
そんな姿に彼女はほんの少し安心した。
彼女の高鳴る鼓動の中に、ガラスに触れるような軋む音が混ざる。