白い月~夜明け前のその空に~
「あ…、そうだね。あれは、夏休み中だったかなぁ。何度か部活あってね、その時退部したんだよね。退部っていうか、退学したんだよ」
『退学』と淡々と言う仁科だが、その言葉は声色よりずっと重く優月の耳に届いた。
軽々しく使うには、あまりにも不釣り合い。
ここまで聞いてしまった以上、直接自分には関係なくとも、無関心ではいられない。
単なる興味本位だけでは済まされない。
優月はあぐらをやめて、座り直した。
「…何で辞めちゃったんですか?」
「うーん。色々とあってね」
ずっとにこにこしていた仁科の顔が僅かに曇り、言いよどむ。
気になるものの、その姿に容易く触れてはいけないことだと察知した優月は、とっさに切り替える。
「そう、なんですか。どんな人だったんだろうって、ちょっと気になっただけなんで」
「ううん。何ていうか、びっくりさせちゃうかもしれないからさ」
仁科は隣の教室の方を窺うと、彼女の隣に腰を下ろした。